「こんな腹立たしい映画も久方ぶりです お薦めできません」神田川 あき240さんの映画レビュー(感想・評価)
こんな腹立たしい映画も久方ぶりです お薦めできません
神田川
1974年公開、東宝
主演 草刈正雄、関根恵子
もちろん、四畳半フォークの名曲「神田川」の映画化作品
そのはずなのですが
神田川は1973年9月20日の発売
すぐに大ヒットとなり、その年の紅白の出場候補になります(出場は辞退)
この唄の歌詞が極めて映像的でもあり、映画化という自然な流れです
なので、この曲が流れるものと当然期待しているのに、全く流れません、劇伴もその曲をアレンジしたものを何パターンも繰り出して涙腺を緩めにかかるということもありません
物語が終わり、ラストになってようやく曲が流れます
物語は歌詞の世界とは関係の無いもので、舞台が同じ神田川と言うだけの別の映画を間違って見ているかのような気分になります
しかも神田川のはずなのに私達観客は終盤には、山形鳴子の雪の山中に連れていかれているのです
そんなところに連れて行かれたくなんてないのに
連合赤軍の山岳ベース事件という
雪山での壮絶なリンチ殺人事件を思いおこされてしまうのです
地方からでてきた若い男女が、貧しいアパート住まいで同棲をしていた日々の思い出を何年か後に振り返って懐かしむというような歌詞の大意の物語の映画を観たかったのに、雪山の中、仲間二人が死んで、燃やされるシーンを見せられるのです
監督も、脚本家も、神田川の歌には何の思い入れも関心すらないのだというのが、観ていると伝わって来て騙されたんだと腹が立ってきます
神田川という歌がヒットしてるらしいから、それをネタにひとつ映画を撮るかというレベルで、昨今問題となっている原作へのリスペクトの欠如ですらありません
タイトルだけが同じだけの別の映画です
冒頭の人形劇が左翼的な内容で、幼児達にそんなものを強制的にみせるシーンは、本作の構造を
明示しているといえます
人形劇のかぐや姫の物語はもちろん南こうせつとかぐや姫というバンド名から思いついただけのことです
マコトは地方の名家の次男坊のようで、大学1年、ミチコは地元神楽坂の芸者の娘で零細出版社の雑用係
結局身分違いということで体制側の兄に仲を裂かれてしまうお話をかぐや姫のおとぎ話からもってきたというだけのこと
ほんの少しでも神田川の歌詞の世界を反映させよう、近づけようという意欲は全く感じられません
単に関根恵子を脱がせて話題を取れば映画はヒットするだろうという不真面目な態度です
こんな腹立たしい映画も久方ぶりです
お薦めできません
「赤ちょうちん」という南こうせつとかぐや姫のヒット曲を映画化した作品もありますが、これもまた歌の世界とは関係のないことを描こうとした腹立たしい映画です
こちらもお薦めできません
四畳半フォークの世界
貧乏臭くて受け付けない方も多いかも知れません
しかし本作はその四畳半フォークの世界ですらありません
半世紀も昔の昭和のお話
そんなものは令和の現代になんの意味も意義もない
ただの懐古趣味でしかないという批判もまた正しいと思います
歌詞では三畳一間の小さなアパート・・・でしたが、令和の今ならワンルーム マンションなだけで、銭湯がシャワーに変わっただけで大して変わらない
そのように考えてみれば、半世紀過ぎた令和の今でも繰り返されている物語のはずです
貧しく若い男女の同棲、すぐに壊れて何年かして懐かしく思いだす
そんな時代を超えたエッセンスを漉して結晶化したような物語を観たかったのです
それならば、神田川の歌のように永遠の生命を得て、21世紀に鑑賞する意味も意義も合ったでしょう
草刈正雄の男前さは圧倒的でした
それだけで☆がひとつオマケです