劇場公開日 1982年10月9日

「輝き続ける男と、支える男。 感動を作り続ける人々。」蒲田行進曲 とみいじょんさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0輝き続ける男と、支える男。 感動を作り続ける人々。

2021年8月19日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD、映画館、VOD

泣ける

笑える

興奮

映画製作の一部をギャグ的デフォルメしているが、ものつくりに関わる人々の思いが伝わってきて、鑑賞しているだけなのに、つい熱くなる。自分も何か作りたくなる。
 銀ちゃん・ヤス・小夏を中心に描かれるが、
 ヤス以外の大部屋俳優・監督・美術・制作に関わる映画会社社員…。
 階段落ち本番に入るときの息をのんでしまうほどの迫力。改めて映画ってたくさんの人々の総力戦でできるのだなあと身が引き締まる。あの雰囲気はCGだと半減かもと知ったような気になるほどの緊迫感。

賛否両論あるラスト。
 舞台へのオマージュか?古き”話”であることを強調したかったのか?監督の想いは判らねど、大部屋俳優と言われる人々を中心に映画製作にかかわる人すべてが集まっての大円団。クランクアップした瞬間に立ち会えたような気分になり、一緒にはしゃぎまくりたくなる。この映画に関わった人々すべてを讃えたくなる。

☆   ☆   ☆

命をかけてもいいと思うほど、男が惚れる男。そんな思いを受け止め続けるために頑張り続け、輝き続けないといけない男。
そんな男を支えているのだどいう自負と喜びで生きる男。
 これが、今はやりのBLではないところが、また…。
傍から見れば、パワハラ・モラハラ・DVの嵐。改善介入したくなる。
でも、本人たちはこれをパワハラとも思っていないのだろうなあ。それほどまでにエンメッシュメントな関係性。

つかこうへい氏の舞台の映画化。舞台で演じた二人がそのまま起用されている。脚本もつか氏が担当。
だからか、キレがよい。畳みかけるような台詞。掛け合い。
つか氏の舞台で観たかったなあ(合掌)。

風間氏や平田氏がすごい。
松坂さんを大根役者という人もいるけど、この映画は見ていないのだろうか?
清川虹子さんの出演も映画を締める。リアリティのないあの演出も、清川さんの演技でリアリティが出てくる(合掌)。
 他にも蟹江氏。強面も、究極の悪役も、コメディもこなせる貴重な役者。頭抱える姿だけでも笑える(合掌)。
 他にも、萩原氏(合掌)が、福本氏(合掌)が、等々の発見もうれしい。
 ヤスのモデルになったという超大物俳優も…。時代劇の悪役と言ったらこの方というほど、TVで見慣れた方ですが、大部屋俳優だったんだ…。この方の階段落ち、観たいなぁ。

リアリティって何?という展開で突き進む映画。
 この展開にのれるかが、この映画に対する評価の分かれ目だろう。
 現実に側にいたら呆れてしまう面々。DV相談所のパンフレットを差し出すだろう。
 でも、この映画に中の彼らはなぜか愛おしい。
 この面々を、こんな風に愛おしく見せられる演技・演出・脚本・映像・音楽がすごい。

 踏みつけられても、踏みつけられても、前向きに生きていくヤス。自分よりも大切な銀ちゃんと小夏のために出した結論。傍から見たら、それダメだろと思うが…。銀ちゃんから見捨てられたような気になってキレる。気持ちはわかるけどさ。そのダメさ加減と格好よさのバランス。ダメな部分だけでは共感を得られない。でも、格好良くなってしまっても映画が壊れる。そのあたりを絶妙に演じきった平田氏。

 「子どもの父親が欲しいの」と、ラストまで自分と子どもの安定を求め続けた小夏。その計算高さがちらほらするくせに、一途な女に見えてしまう。そんな相反する要素があるくせに天然にみえる演技の松坂さん。捨てられたころのやさぐれた様子。悲哀。それでも、ヤスのために一生懸命な様。そのすべてがこんなにも美しいなんて…。

 前半、「赤ちゃん?」と言いたくなるような破天荒な無茶苦茶な人物として描かれる銀ちゃん。センスもダサダサで、笑かしてくれる。振り回されつつも、自分が付いていないとと思わせる愛嬌(アイスキャンディの小道具がナイス!)。でも、「俺を人殺しにさせやがって(思い出し引用)」という台詞以降の銀ちゃんの格好良いこと。特に、階段場面での迫力に惚れてしまう。一歩間違えれば、単なる鼻つまみ者にしかみえないのに、ヤスが惚れこむ男としての存在感も出さなければならない。こんな難しい役を愛すべきキャラクターとして演じきった風間氏。時代劇の立役者としての、動きのキレも半端ない。
 (『キネマの天地』の歌の時と、銀ちゃんの時の声のハリがかなり違うことからすれば、銀ちゃんをやっていたときは声の発声・言い方からしてすべて演じていたのだろうと拝察する。ちなみに、歌の中に平田氏の声は、私には感知できない。それを突っ込んだ時の平田氏・風間氏の受け答えを妄想してしまう(笑))

銀ちゃんとヤスの、デフォルメされたバランス・かけあいが吊りあっていないと成り立たない映画。
 そのデフォルメされた二人の間で、女ならそう思うよねという部分をリアリティをもって存在した小夏。
 このバランスが、喜劇にも見せ、現実にありそうなドラマとしても魅せてくれる。
 そして、この三人が皆、寂しさを抱えている様がいい。そこが、一度見ればいい映画ではなくて、繰り返し観たい傑作になっている。

この三人の関係を、しんみりとさせるシーンも織り込みつつ、勢いに乗って最後まで見せ切る。
映画の中の映画・階段落ちのシーンの冒頭、電で浮かび上がらせる竜の壁画。それだけで、雰囲気が切り替わる。
ヤスの見せ場も二種類以上の音楽でシーンを盛り上げる。

というように、役者、演出、美術、音楽、脚本すべてがすごい。一つ一つ、ツッコミも含めて、語り尽くしたくなる。
『恋人も濡れる街角』がこの映画の主題歌だとは知らなかった。
同じ曲でも場面によって曲調が違って彩りを添えるかと思うと、無音。
緩急がすごい。

そして当然JACというスタント集団がいなければ成り立たなかった映画。
 若き真田氏・志穂美さん・千葉氏は当然、あのスタントやったのJACだよね。アクションナイス!!

無茶苦茶なんだけれど、この映画のパワーに巻き込まれてしまう。
映画の世界にいつの間にか取り込まれてしまう。
究極のエンタティメント。

とみいじょん
Mさんのコメント
2022年12月30日

あのラストシーン、賛否両論あったんですか?
私はあのシーンがあったからこそ、この映画が忘れられない作品になりました!

M
talismanさんのコメント
2021年10月9日

何回も何回も何回も見ては笑って泣きました。清川虹子さんの演技が素晴らしい!

talisman