「歌舞伎や人形浄瑠璃の要素が垣間見られる異色作」陽炎座 鶏さんの映画レビュー(感想・評価)
歌舞伎や人形浄瑠璃の要素が垣間見られる異色作
「夢二」(1991年)、「ツィゴイネルワイゼン」(1980年)に引き続き、鈴木清順監督生誕100周年記念でデジタルリマスター版が上映された「陽炎座」(1981年)を鑑賞。 「大正浪漫三部作」と言われているものの、本作の舞台は「大正から昭和に変わった東京」と銘打たれていたので、「大正浪漫」に数えていいのかなとも思う。ただ話の始まりは、大正天皇が崩御された1926年だったし、改元はこの年の12月25日だったので、まあ大正時代のお話と言っていいのでしょう。
三部作を通じて、原田芳雄や大楠道代などが共通して出演しており、役柄や風体も似通っているため、話の筋が異なっていてもなんとなく他の作品を引き摺ってしまいました。ただ本作の主役は松田優作で、こちらは三部作中「陽炎座」にしか出演しておらず、中村嘉葎雄とともに作品の主軸を担っていました。どちらかというとアクションスターのイメージが強い松田優作ですが、本作では実に静かなもので、中々新鮮でした。
また、三部作全般に言えることですが、場面の入れ替わりが唐突な感じで、ジーパンならずとも「なんじゃこりゃあ」と思うこともしばしばありましたが、本作を観て思ったのは、これって演劇的手法を取り入れているんだということ。舞台劇と違うのは、舞台の場合は場面を転換をする際にそこそこ時間が掛かるので、観ている方もそれと認識して心の準備をするものの、映画においては瞬時に舞台転換出来るため、いきなり場面が変わると所在が分からなくなってしまうことがありました。でも本作は、セリフ廻しも舞台劇っぽい部分が多々あり、そのためいきなりの場面転換もそれとして認識することが出来た感じでした。
それにしても大正時代というのは、どういう時代だったんでしょう。大正浪漫三部作で描かれているのは、どちらかと言えば”上級国民”とか知識人層の物語でしたが、和服を着る人が多数を占め、風習や社会制度においても、まだまだ江戸時代のそれを色濃く残した時代として描かれていました。大正12年(1923年)の関東大震災後の混乱を描いた「福田村事件」などは、一般庶民の姿を描いていましたが、髪型こそ髷は結っていないものの、こちらも時代劇で観る江戸時代とそんなに変わらない雰囲気を漂わせていました。
いずれも映画であり、ドキュメンタリーではないため、どこまで大正の意匠が正確に反映されているかは測りかねますが、仮に1930年代から40年代に掛けての戦争の時代がなかりせば、現代の様子もかなり変わっていたんだろうなと、思ったところです。
最後は映画の話から随分と離れてしまいましたが、演劇、特に歌舞伎や人形浄瑠璃的な要素が垣間見られた独特の作風を魅せてくれたということで、評価は★4とします。