劇場公開日 1959年6月23日

「暗闇に 鍵穴も見えない」鍵(1959) shisyunさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5暗闇に 鍵穴も見えない

2008年10月21日

谷崎潤一郎原作。最近では1997年の川島なお美主演による「鍵 THE KEY」が記憶に新しいが、同じ原作の映画化としては、これは4度目(邦画だけでなければイタリア映画にもあったので5度目)の作品。私が観たのは、お初の映画化。監督は市川崑。出演は、剣持に中村鴈次郎、郁子に京マチ子。 この中村鴈治郎の歩く姿がいい。初老に差し掛かり体力の衰えが隠せない剣持。娘の敏子(叶順子)とお付き合いをする恋人の木村(仲代達矢)に、妻の郁子が気持ちを寄せていることを見抜き、それを自らの生命力のカンフル剤に利用する。簡単に言えば、嫉妬ってやつ。すごいな、嫉妬を自らの生きる糧にしようとするんだから。
 亭主に従順な郁子も、それを利用して木村と一層深入りしていく。随所で宮川一夫のカメラワークが光るんだけど、ちんちん電車がよく登場する中、あの機関車が何度も連結シーンはちょいと笑えた。誰のアイデア? 監督? 撮影? まさか脚本の和田夏十さん?
 父母の企みもお見通しの娘さん敏子の不細工面がまたいい。ここでは母への嫉妬が父への逆恨みとなり、母を助長させることにもなる。面白いね。それに輪を掛けて、本来は伏線にもなり得ないはずのお手伝いさんの存在、はなさんを演じるのは北林谷栄。名役者だね。実際に鍵を手渡されるのは、郁子から木村へだけど、最後に物語としての鍵を握っちゃうね。おそらく、旦那さんである剣持をお可哀相、そう思ってたんだろうね。なんだかんだ、剣持が変態的に見られやすいだろうけど、彼を取り巻く三人からすれば、いちばん純粋に見えたのかもしれないね。確かに剣持には生への執着があったが、他の三人のような悪意や殺意や憎悪は見られない。
 しかし、鍵をかけなければ、鍵穴も、ましてや鍵もいらないのに。

shisyun