「長廻しによるリアルとマジックの極致」お引越し りゃんひささんの映画レビュー(感想・評価)
長廻しによるリアルとマジックの極致
京都で暮らす小学6年生の少女、漆場レンコ(田畑智子)。
その夏休み。
両親のケンイチ(中井貴一)とナズナ(桜田淳子)は夫婦仲が冷めきって、離婚を前提に別居生活に入った。
住み慣れた部屋を出て行ったのはケンイチの方だった。
しっかり者のナズナは、レンコと二人暮らしを始めるにあたって、家庭内のルールを書き出して、壁に貼り出した。
なんとなくイヤな感じがする。
けど、心底イヤという感じでもない・・・
といったところからはじまる物語。
今回が初鑑賞。
公開当時は、わたしが働き出して、仕事も順調で、映画鑑賞本数が減っていた頃。
『ションベン・ライダー』以降は、毎回、相米慎二監督作品は観ていた。
が、トレードマークともいうべき長廻し演出に嫌気を覚えだしたこともあり、鑑賞しなかった記憶している。
なお、前作『東京上空いらっしゃいませ』は、公開から遅れての名画座鑑賞だった。
あまり良い印象が残っていなかったのも確か。
さて、今回初鑑賞しての感想は、「長廻し、抜群の上手さだな」に尽きる。
カットを割ったがごとく、演者の演技のツボを押さえてのカメラワーク。
撮影の栗田豊通の力に負うところが大きい。
気に入ったのは、レンコとケンイチが土手で会うシーン。
高低差を活かした両者の動き、土手の長さ・奥行きを活かした動き、演者の気持ちを途切れさせることなく、ふたりの微妙な距離感を観客に感じさせつつの長い長いワンショット。
いやぁ、唸るねぇ。
映画は、生活臭を大いに感じる前半から、幽玄の世界へと繋がっていく。
繋ぐのは、京都のまつり、祇園さん。
レンコは祭りの群集を離れ、森を彷徨ううち、いつしか家族三人が幸せに暮らした琵琶湖畔にたどり着く。
精霊流し。
彼岸と此岸。
過去と現在、さらには未来が繋がっている。
フェリーニ映画のような映画的幻想・魔術。
「おめでとうございますぅ」と叫ぶレンコは、幸せだった過去、そして幸せであろう未来に向かっている。
過去も未来も幸せならば、現在も幸せなのだ。
エンドクレジットも映画的マジック。
さまざまな人とすれ違いながら通りを横切っていくレンコ。
ワンカットの中で、レンコは成長していく。
いやぁ、ほんとうに感心した一編でした。
なお、公開当時に観ていたら、これほど感銘を受けたかどうかはわからない。