「再び巡り合った運命のマドンナ」男はつらいよ 寅次郎相合い傘 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
再び巡り合った運命のマドンナ
シリーズ15作目。
OPの夢は、大海原を行く海賊タイガー(寅さん)が、奴隷船に囚われていた妹チェリー(さくら)と再会する。
そう、渥美清はジョニー・デップより遥か以前に海賊をやっていたのである!(夢だけど…)
(ちなみに、このシーンの倍賞千恵子がドキリとするほど美しい)
いつになく長くとらやに帰って来ない寅さん。
さくらたちも心配物寂しい。
そんな寅さん不在のとらやを突然訪ねて来たのは…
シリーズ11作目『寅次郎忘れな草』以来の登場となるリリー!
何と言っても今回の見所は、この名マドンナ…いや、寅さんの運命のマドンナの再登場!
前回のラストで寿司屋の女将になった筈が、結局別れ、また各地のキャバレーを歌って回っている。
積もる話もあったのか、寅さんに会えなかった事を残念がり、リリーも旅に出る。
その頃寅さんは、青森に居た。ヘンな連れと一緒に。
聞けば、一流会社に勤め、裕福な家庭で暮らしている中年サラリーマン・兵頭。
突然蒸発したくなり、当てもなく旅してた所を寅さんに声を掛けられ、以来くっついて来ている。
うんざりしている寅さんだが、放っておけない。
珍妙な男二人旅は北海道へ。
函館の屋台ラーメン。そこでばったりとリリーと再会する!
寅さんとリリーの最初の出会いも北海道だった。
「何してたのさ?」と聞くリリーに、「恋をしていたのよ」と返す寅さん。
懐かしさと思い出話と積もる話に花が咲く。
男二人に女一人が加わり、一気に華やかで楽しい旅に。
渡世人の男女と競争社会に疲れたサラリーマンへ向ける山田洋次監督の眼差しが優しい。
旅は小樽へ。
兵頭の初恋の相手が居る。
再会し、相手も何か言いたげだったが、結局何も出来ないまま、挨拶だけして去る。
その事を悔やむ兵頭。自分はたった一人の女性もろくに幸せにしてやる事も出来ないのか。
慰める寅さん。
それに対し、リリーが異論を唱える。
バカ言うんじゃないよ、女は男の助けが無きゃ幸せになれないってのかい?
気の強いリリーらしい言い分。
これがきっかけで寅さんとリリーは口論。寅さんはつい、酷い事を言ってしまう。
喧嘩別れ。楽しかった旅も終わり…。
柴又に帰ってきた寅さん。ずっとリリーの事が気になっている。
そこへ、リリーが訪ねて来る。
北海道での喧嘩は何処へやら、すっかり仲直り。
昼間から腕を組んで歩く寅さんとリリーは、柴又中の話題。
あらぬ噂も。二人は出来ている、寅さんはリリーのヒモ…。
いつもなら寅さんの恋路にやれやれのとらや一同だが、今回は違う。
相手がよく知っている人だからもあるし、それ以前に、寅さんとリリーが仲良くして何が悪い?
また、寅さんのリリーに対する優しさは本物だ。
リリーを仕事場の店(キャバレー)へ送って行った寅さん。あまりにも狭く、お粗末な店にショックを受ける。
リリーはこんな所で歌っているのか…。
もし俺に金がたらふくあったら、大劇場を貸し切って、思う存分リリーに歌わせてやりたい。
そんな寅さんのリリーへの優しさに感動するさくらたち。
かと思えば…。
さて、皆様、お待ちかね! シリーズ屈指の爆笑エピソード“メロン騒動”である。
兵頭から頂いたメロンを食べようとするとらや一同。
うっかり、寅さんの分を切り忘れた!
そういう時に帰って来るのが、寅さん。
「訳を聞こうじゃねぇか、訳を」
「俺のはどうしたの、俺の~!」
メロン一つで不機嫌になる寅さん。
見かねて口を挟むリリー。
再び、寅さんvsリリーの言い合いバトル。
が、今回はリリーの圧勝。ぐうの音も出ないくらい寅さんを言い負かす。
やっと出た寅さんの一言が、「これでも女でしょうか!?」(笑)
ぷいととらやを飛び出すが、さくらたちは、「スカッとした~!」「いっぺん、あんな風に言ってやりたかった」。
勇ましいリリー。
このすぐ後が秀逸。
突然、強い雨が降ってきた。
傘を持たないまま仕事に行ったリリー。
喧嘩した後、遠回しにリリーを心配する寅さん。
ブツブツ文句を言いながらも、リリーを迎えに行く。
寅さんが迎えに来てくれた事が、メチャクチャ嬉しいリリー。
「迎えに来てくれたの?」
「バカ言え、散歩だよ」
「雨の日に散歩なんかするの?」
「しちゃ悪りぃのかよ」
今回のタイトル通り、相合い傘して帰る寅さんとリリー。
喧嘩して仲直りして、またすぐ喧嘩してまたすぐ仲直りして。
お互いにとって、これ以上の相手はいないだろう。
さくらは思いきって、リリーに話す。リリーさんがお兄ちゃんの奥さんになってくれたら…。
それを聞いて、リリーは…。
船越英二の惚けた演技、
本作で多くの映画賞を受賞した浅丘ルリ子の好演、
相性ばっちりの寅さんとリリーの掛け合い。そして…
どうしても素直になれない二人。
リリーはおそらく本心だったろう。
寅さんもそれが分かっていながら…。
リリーみたいないい女は、俺と一緒になっちゃあ幸せになれない。
傷を癒し、美しく逞しい渡り鳥は再び自由へ飛び立つ。
前14作目はちと平凡な出来だったが、本作は、渡世人男女の切なさと情感の恋路がたっぷり描かれ、出色の出来に。
二人の恋路はまだ終わらない。
次二人が再び巡り合うのは、シリーズ25作目、屈指の名篇『寅次郎ハイビスカスの花』となる。