劇場公開日 1974年8月3日

「山田洋次監督のプロフェッショナルさに改めて驚き尊敬するばかりです」男はつらいよ 寅次郎恋やつれ あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0山田洋次監督のプロフェッショナルさに改めて驚き尊敬するばかりです

2020年9月7日
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鑑賞方法:DVD/BD

吉永小百合は男はつらいよシリーズに2作出演しています
第9作の柴又慕情と本作です
やはり超がつく人気女優になるとまた出演して欲しいとのファンの声が大きくなるのは当然のことです
しかし山田洋次監督が吉永小百合をまた寅さんに出したのは、第9作が実はまだ本当には完結していないと感じていて、完結編を撮って決着させたかったのだと思います

本作の見所は何か?
それは吉永小百合でも、寅次郎でもなくて
吉永小百合の父親役の宮口精二が、とらやを訪れて、娘に口下手ながら娘の幸せを願う父の愛を語るシーンです
涙ながらに観ないではおられません
画面の中の登場人物が全員泣き、観客もまた泣いてしまう名シーンです

このシーンによって第9作を本当に完結させることが出来たのだと思います

本当はこのシーンを第9作でやっておかねばならなかったのです

そしてなにより腰を抜かすほど驚いたのは、そのシーンがあるのはちょうど1時間30分ドンピシャであることです!
たまたま偶然であるのかも知れませんが、そうではなく、台本、カット割、編集それらが緻密な計画と計算の上で組み立てられていたということだと思います

序盤とラストシーンの絹代さんは、歌子が嫁に行って未亡人となった姿を寅さんに年齢を合わせた女性として投影させた人物です
彼女によって私達観客は自然と歌子が今はどうしているだろうかと寅さんと同じ心境で歌子の登場を迎えることが出来る訳です
そしてラストシーンではその退場まで決着させているのだから恐れいります

絹代という名前はもちろん田中絹代から採られたものでしょう
高田敏江もそのイメージで演じていると思います

歌子の実家のロケ地がどこかわからず、気になって仕方ありませんでした
ネット情報によればどうやら東横線大倉山駅の東側で間違い無いようです
土地勘のあるところなのに盲点でした

では、なぜ神奈川県横浜市の大倉山駅辺りをロケ地にしたのでしょうか?

戦前なら小説家の家があるのは高台から駅に坂を下りていく所にあるものでした
イメージは田端の辺りです
田端文士村とか呼ばれたりしたとか
記念館が田端駅北口を出てすぐ近くにあります

そして田端の他にも有名な文士村がもう一つ
それが大田区にある馬込文士村です
大森駅、西馬込駅、池上駅の三角形の真ん中辺りです
でもどの駅も高台から下りていく駅のイメージが出せない駅の風情です

そして戦後の現代なら、小説家という人種は東急沿線に住んでいるイメージがあります

きっと、そのイメージが合致するロケ地を東急沿線縛りで探したのでしょう
けれど見つからず神奈川県までロケハンして大倉山駅を見つけたに違いありません

でも大倉山からは、多摩川の花火大会が見える訳はありません
1974年当時は多摩川大橋辺りで打ち上げしていたそうですから

ロケ地は大倉山でも、距離感や方向からみて、彼女の実家はやはり馬込文士村辺りにある設定のようです

そして歌子の父親の姿形、川端康成のイメージそのものでした
彼も若い頃1年だけですが馬込文士村に住んだことがあるそうです
昔の小説家はみんなあんなイメージなんですが、意識して寄せていると思います

見事なロケ地の設定でした

山田洋次監督のプロフェッショナルさに改めて驚き尊敬するばかりです

さて、吉永小百合
彼女は本作公開日のちょうど1年前の1973年8月3日友人宅で電撃結婚しています
お相手は15歳も年上の男性です
つまり寅さんと同年配なんです!

それを踏まえると、なんだか本作は彼女に大丈夫?なんて聞いているかのような気もします

第9作に彼女が出演して1年後に15歳も年上の男性と突然結婚したものだから、山田洋次監督も責任を感じてしまったのかもしれません

あき240