劇場公開日 1969年8月27日

「寅さん初視聴」男はつらいよ 消臭プラスさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0 寅さん初視聴

2025年10月1日
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鑑賞方法:その他、VOD

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子供の頃からその存在は知りつつも敬遠していた寅さんシリーズ。なんだか古臭いし渥美清の顔も好きじゃないし。退屈でベタベタな人情喜劇なんだろうと食わず嫌いでおりましたが、ウエストランドの河本さんキッカケでちょっと試しに見てみようと気紛れを起こしてU-NEXTで視聴。

本当に思った通りベッタベタ。もう50年以上前の作品ですから当たり前と言えば当たり前なのですが、なんの新鮮味も感じられないストーリー。演技もなんだか大袈裟で芝居がかってるかと思えば台詞を噛んでるのにそのままの所もあったりと、現代の感覚では違和感をおぼえるシーンが散見されます。主人公である寅さんの破天荒で無茶苦茶な性格が災いしてのトラブルメイカーっぷりも度を越していて少々不快…。

だがしかし。それにも関わらずこれが実に面白い。バラエティ番組などで常々耳にした冒頭のあのフレーズ、お世辞にも画質が良いとは言えないザラついた色彩に一気にノスタルジックな仮想世界に引き込まれます。映画を見た事の無い人間でも日本人なら誰でも知ってるあの寅さんが颯爽と画面に現れると心の中では既に拍手喝采。よっ!待ってました!なんて気分にさせられてしまいます。
上で書いたように行く先々でトラブルを巻き起こす寅さんを軸にしたベッタベタなストーリーは第一作目から既にマンネリ化しているには違いないのですが、それがほんの瑣末事だと思い知らされます。

何より渥美清さんの名調子が耳に心地よい。大衆演劇のような芝居がかった仕草もこの寅さんというキャラクターをより際立たせているように感じられ、むしろこれでこそ寅さんなんだと思わされました。
脇を固める役者陣も味があり、妹さくらの美しさは「とらや」の雰囲気からは逸脱していてハッとさせられるほど。個人的にはおいちゃんのコミカルな表情が大好物。「馬鹿だねぇ〜」がちょっと癖になります笑。
かと思えば博の父親のスピーチシーンでは分かっているのに思わず目頭が熱くなってしまうような説得力漲る名演もあり、当時の役者さんの充実ぶりがギュッと詰め込まれた素晴らしさ。

古き良き昭和の日本という今となってはまるで異世界な寅さんワールドで繰り広げられる人情劇。観客はまるでその異世界に転生したかのごとくその一員となる他ありません。
それほどにこの寅さんワールドにはそこで生活する人々の息遣いが聞こえてくるようなリアリティがあります。山田洋次監督の手腕なのでしょうか、細部までしっかりと作り込まれたこの舞台がどうにも懐かしく愛おしいのです。願わくばずっとこの世界に浸っていたいと思わせる温かさが名もなきエキストラの方々にまで満ち満ちているようです。

コロナ禍を経て益々人と人との距離が遠ざかってしまった現代にこそこの物語とこの世界はより一層輝いて感じられるのではないでしょうか。
未見の方には是非オススメしたいと強く思います。

消臭プラス
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