劇場公開日 1969年8月27日

「トリックスターがやってくる。   喜劇役者・渥美氏の真骨頂。 みんな、若い(笑)。」男はつらいよ とみいじょんさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0トリックスターがやってくる。   喜劇役者・渥美氏の真骨頂。 みんな、若い(笑)。

2021年9月19日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

笑える

楽しい

単純

寅さん(渥美さん)の流れるような名セリフの数々。
さくら(倍賞さん)の様々な表情。キラキラ輝く。博との結婚はあんな風に決まったんだね。決めるときは決めなきゃ幸せにはなれないね。
博と寅さん、恋愛指南が笑った。あのそばにいたママは渡辺えりさん?
結婚式では、寅さんの言葉に、一番に御前様の娘が拍手し、二番手に御前様が拍手、そして皆に広がっていく。その時の御前様の表情。

ストーリーとしては特にどうってことない。
 でも、あの寅さんの口上・言い回しを中心とする、おいちゃん、おばちゃん、さくら、博、タコ社長、御前様、登のアンサンブルに、いつの間にか最後まで観てしまう。

役に立ちたいと、ほめられたいと行動するんだけど、かえって迷惑をかけてしまうどうしようもない主人公。
それに振り回される団子屋とご近所の面々。
おいちゃんが「バカだねえ」と言い、
御前様が「困った、困った」を連発する。
そんな寅さんを兄と慕う博と登。
そんな男どもをさりげなくフォローしているおばちゃんとさくら。
殴り合い、罵倒しあうけれども、相手を大切に思い、相手のためになろうとする気持ちが根底にある。
懲りない人々の繰り返し(笑)。

寅さんはトリックスター。
いつもの変わらぬ日常が、トリックスターによってかき回されて非日常となり、また定番の世界に戻る。退屈な日常が、トリックスターによってちょっと冒険的・破壊的になり創造されなおして事が収まり、いつもの日常に感謝する。
その繰り返し。

ギネス記録を打ち立てた映画の記念すべき第1作。
すでにドラマとして評判で、その終了に伴って作成された映画だという。
だからある程度の世界観はすでに出来上がっていた。
とはいえ、TV版とは違う役者が演じている役もある。
TV版を見ていないので、違いは語れないが、世界観を引き継ぎつつ、新風を吹き込む。

言葉だけを抜き出せば、ひどい言葉の応酬。今ならNG。
 とはいえ、こんな風に腹の内をさらけ出して大喧嘩して、それでも相手の存在を否定することなく受け入れ、いつの間にか元のさやに納まる。
 こんな喧嘩、いつの間にできなくなってしまったのだろうか。
 我慢に我慢を重ねて、修復できなくなる関係。
 だからちょっとしたきっかけで、決定的に破城する。
 だから、仲直りできない。
 だから、地雷を踏まないように、武装する。
そんな人間関係に疲れた身には、どんなにトリックスターが暴れようと、壊れない帝釈天の人々にほっとする。お茶に団子が身に染みる。

数年前に訪れた、帝釈天や矢切の渡し・江戸川の土手が懐かしく...。草団子が食べたくなってしまった。

とみいじょん