お茶漬の味のレビュー・感想・評価
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理想を捨てて現実を見る話
語り継がれる大傑作ではないですが、とても面白い映画でした。
上流階級出身の妻と庶民出身の夫のすれ違いと和解をユーモラスに描いた作品です。倦怠期や価値観の相違など切り口はたくさんありそうですが、個人的には主人公の妻・妙子が固執していた理想を捨てて現実を受け入れていく話だと感じました。
妙子は見合い結婚で結ばれた夫を鈍感と見下しており、家のレイアウトを見ても、自分の世界を頑なに守っています。倦怠期というよりも初めからつながっていない夫婦だと思います。
姪っ子のせっちゃんは見合い結婚を拒絶しており、そんなせっちゃんに対して妙子は辛く当たります。そこには明らかに羨望と怒りが含まれています。自分はつまらない思いで生きているのに、この子は自由っぽいから許せない、そんな気持ちがだだ漏れています。
妙子は自分のファンタジーの中でしか生きていません。他者がいないのです。彼女にとって夫は愚鈍で醜いオブジェ、といったところでしょう。
本作も小津ちゃんらしく演出が絶妙で、特に夫・茂吉についての描写には痺れました。
序盤は確かに愚鈍っぽい印象を与えます。なので、妙子の苛立ちはさもありなん、と感じたものです。
しかし、物語が進むにつれ、茂吉の魅力が伝わってきます。この男、じつはかなり優しく包容力がありました。それと反するように、妙子の一人相撲っぷりが際立つようになります。これをサラリと描くところが小津ちゃんの凄みだと感じました。
クライマックスのお茶漬けシーンも素晴らしく、妙子の変容も説明だけでなく表情がガラリと変わるなど、説得力がありました。
ただ、妙子の変容に至るプロセスは若干早急な気も。また、これを成長と呼べるのかどうかはなんとも言えないところです。寂しい思いをしているときに夫が戻り感動、みたいな単純なものであり、喉元すぎれば夫はまた愚鈍なオブジェに戻るんじゃねぇか、なんて邪知します。「あの人、いいと思ってたけど、やっぱり鈍感よ!」とか、淡島千景にグチる姿が目に浮かびます。
あと、あのキメ台詞がどうも肌に合わない。終盤の展開はそれまでのスムーズさが見られないため、変形智衆エンドだと感じます。あのキメ台詞はいかにも笠智衆が言いそうです。茂吉のイントネーションもちょっと智衆っぽかったぞ。
(智衆エンド…小津作品のラストで笠智衆が良さげな台詞を言って締めるパターンのこと。良いこと言うので丸く収まる気がしますが、意外とまとめ切れないストーリーを強引に丸め込む荒業の側面もある。晩春・早春が代表例)
大概の女は、旦那さまのほんの一部しかみていないのよ
映画「お茶漬の味」(小津安二郎監督)から
今まで観た「小津作品」の中では、最高傑作、
メモをしながら、そう感じたことを、まずはご報告。
冒頭(修善寺の旅館)とラスト(自宅)にセットされている
女性同士の雑談シーンが印象的だった。
特に、夫が海外単身赴任しているのを羨ましがり、
「うちの旦那さまもどっか行っちゃわないかなぁ、遠いとこ」
と言う何気ない台詞が、最後になって「なるほど・・」となる。
今まで食べ方さえ気に入らなかった「お茶漬」を、
深夜に夫婦2人で食べて、はじめて夫の気持ちに気付くシーン。
翌日、夫が海外へ旅立ち、いつものように女性同士の会話。
しかし、もう夫を小馬鹿にしたような表現はなかった。
「でも男って複雑ね。女なんて家にいる旦那さましか知らないんだもの。
家にいる旦那さまなんて、甲羅干してる亀の子みたいなもんよ。
あれで外へ出りゃ、結構、兎と駆けっこしたり、浦島太郎乗せたりすんのよ。
大概の女は、旦那さまのほんの一部しかみていないのよ」
家でのっそりしている様をみて、夫を亀に例えたうえ、その亀も、
よく考えれば「昔話」の中でも意外と頑張っていることに気付いた。
この妻の気付きは、夫婦にとってとても大切なことだと思う。
「男の人って、頼もしさっていうのかしら。それが一番大事なの」
この台詞って、なかなか言えないから輝くんだなぁ、きっと。
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