劇場公開日 1952年6月12日

おかあさん(1952)のレビュー・感想・評価

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5.0家族とその外部、複数の視点

2023年8月20日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

1952年。成瀬巳喜男監督。苦しい家計をやりくりする母をみつめる娘の視線から(主に)できている映画。長男の死と夫の死を立て続けに迎える母は、夫が始めたクリーニング店を夫の友人とともになんとかやりくりして、長女、次女、夫の妹から預かっている息子、の3人の子供を育てている。母には昔なじみの行商の友達がおり、長女には幼馴染のパン屋の息子がおり、次女には親戚から養子の話があり、息子の元には美容師になるために励んでいる母親が時折やってくる。家族と「外部」との関係が丁寧に描かれ、それぞれの場面で複数の視点が交錯する様子を丁寧に描いている。すばらしい。
例えば、長女は母と手伝いにくる父の友人との関係に潔癖な拒絶感を抱いているが、長女の彼氏のパン屋は一般論で未亡人の恋を肯定的に考えているし、当人同士は名づけようがない気まずい空気を抱いている。そして、自身が美容師の練習台として花嫁衣裳を着たところを彼氏に見られたことから、結婚を意識し始めた長女の気持ちがかわっていくのだ。この複雑な関係と微妙な変容の描写がすばらしい。しかも、これはただの一例なのだ。
なんといっても香川京子の長身を生かした被写体としての魅力が満載なのは言うまでもない。

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5.0成瀬巳喜男監督の代表作は、本作3年後の1955年の「浮雲」とされるようですが、本作こそ代表作にふさわしい作品と思います 大好きな作品です

2022年10月18日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:VOD

昭和27年、1952年6月公開、白黒作品

場所は六郷辺りのようにみえます
お話しは小学生の作文コンクールの優秀作品を脚本家の水木洋子がまとめたもの

なので、元の作文はきっと小学生3年生くらいの次女の則子のものなのだとおもわれます
だって年子はラストシーンでは18歳なのですから

それを大変に上手く姉の年子からの視点に転換して、香川京子が演じる長女年子が主人公になっています
正に脚本家の腕の冴えだと思います

水木洋子の脚本は、本作のあと成瀬巳喜男監督、今井正監督に数多く採用されていくことになります

田中絹代は当時43歳
身長は152センチ
小さくて細くて、チョコマカと動きます
彼女は絶世の美人ではありません
肉感的でもなく、性的アピールは皆無です
まして本作ではもうアラフォーです
貧しい家庭の母として、粗末な衣服ばかりで、化粧も髪型も構っていられないという姿で登場します

でも彼女の人間性の中にある女性は間違いなく絶世の美女なのです
かわいらしく可憐で抱きしめたくなる
そのような女性が内面にいるのです
外見ではないのですからいつまでも歳を取らないのです
その美しさが彼女の演技によって内面から表出してくるのです

結婚するならこのような女性です
今なら断言できます

田中絹代の演技のすごさ、成瀬巳喜男監督の演出の冴え、香川京子の輝くような清潔感溢れる可愛らしさ
子役二人の自然な表情
70年前の日本の光景も興味深く楽しめます

成瀬巳喜男監督の代表作は、本作3年後の1955年の「浮雲」とされるようですが、本作こそ代表作にふさわしい作品と思います
大好きな作品です

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あき240

3.0成瀬巳喜男‪✕‬田中絹代

2022年8月16日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

2022年8月16日
映画 #おかあさん (1952年)鑑賞

戦後クリーニング屋を再開した福原家。店は父の弟子である木村のおじさんが手伝ってくれていた。しかし長男と父を相次いで亡くしてしまい、母は女手ひとつで店を切り盛りすることになってしまった。
#成瀬巳喜男 監督の名作
#香川京子 がかわいい

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とし

4.0苦労を重ねながら堅実に生きる、そんな日本のおかあさんの実像を描く成瀬演出の確かさと美しさ

2021年11月19日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

日本映画に男尊女卑の風習に対する批判の作品が多いのは、弱きものを助ける大衆芸術の証しだと思うが、特に苦労ばかりの薄幸の母親を主人公にするところに、日本人特有の人情と性格が表れている。だが、昭和30年代に作られた“母もの映画”は、そのどれもが涙の押し付けで安易なホームドラマに終わるものが少なくない。そんな中で、この成瀬作品は凛とした映画の姿を持っている。主人公の女性は、夫を始め肉親を失い稼業のクルーニング屋を引き継ぎ苦労を重ねながらも、母として女性として、しっかりと生きて行く。成瀬監督は、その生きる逞しさを誇張せず、極自然な日本人のおかあさんの実像として描いている。そこが何とも美しく、主演田中絹代の淑やかで芯のある演技が素晴らしかった。
物語は長女年子のナレーションによって大筋の説明がなされる。これもこの映画を地味ながらほの温かくさせた要因である。香川京子の演技と声の、清らかな優しさがいい。時代を窺わせる家族や親族の事情を抱えた設定でも、どれもが生きることに真摯に向き合っている姿を反映させていて、エピソードの一つ一つが印象的なのだ。年子が近所の人の良い青年と相思相愛の仲になり、一緒にピクニックに行くプラトニックな描写など微笑ましい。次女久子が子供のいない親族の家に養女として貰われるが、別れの時に母の似顔絵を持っていくところも、いい場面だ。母親の愛情が同居している従弟に偏るのに久子が嫉妬する些細な描写にも、細やかな演出が施されている。その従弟が久子と離れ離れになると知って、急に優しくなるところもある。子供心の機微を丁寧に描写した脚本の上手さが光る。また理容試験の為に年子が花嫁衣裳を着付ける場面では、偶然にも恋人の青年が見てしまい、早合点して慌てるところの可笑しさもある。成瀬映画をまだ僅かしか観ていないが、こんなユーモアの演出にも手堅いタッチを見せて興味深かった。その後の母子の見つめ合って視線が合うショットがいい。ここに映画だけの表現の雄弁さがある。

ホームドラマは、ありふれた日常生活の物語ゆえの凡庸さに落ち着く難しさがある。しかし、この映画の成瀬監督は、そんな平凡な生活の中にも、人間の微妙に変化する表情を的確に細やかに捉えていて瞠目させるものがある。そして、田中絹代と香川京子の共演が絶妙に溶け込んでいた。日本映画のホームドラマで数少ない秀作の成瀬作品であると思う。

  1979年 9月11日  フィルムセンター

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Gustav

3.0香川京子の花嫁姿

2016年2月8日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

笑える

萌える

ラスト近くに、叔母の髪結いモデルとして花嫁姿になる香川京子。そこへたまたま思いを寄せるパン屋の息子が現れるが、香川が本当に嫁いでしまうと早とちりをしてしまう。
この時のウィンクに舌をペロッとする香川のチャーミングなことと言ったらない。映像はモノクロではあるが、現代にも通用する明るさ、清潔さ、愛嬌の良さを湛えている。例えば、結婚情報誌の広告にしても十分に通用するだろう。
自宅の座敷で花嫁を感慨深げに見つめるシーンは、言うまでもなく小津安二郎の戦後の作品にお決まりのパターンのように繰り返し現れる代名詞的な映像である。
しかし、同じような花嫁支度が整ったシーンに、この快活な現代性を表現した監督は成瀬巳喜男である。ただのモデルを買って出ただけとはいえ、あっけらかんとした香川もそうだが、この花嫁支度がシミュレーションに過ぎないという物語上の設定も、戦後10年も経たないうちにすでに時代がかったイベントになっていたことを告げている。
小津の作品に嫁ぎ先探しの話が出てくるようになるのは、もちろんこの「おかあさん」よりも10年ほどあとのことである。小津の描いた首都の中産階級層ではのちのちまで旧来の婚礼衣装が残され、成瀬の描く町はずれの貧しい人々の間では、すでにそのようなものは「つくりもの」として捉えられている。
つまり、婚礼や婚姻というものが急速に変化しているのは、比較的裕福な人々よりも、貧しい生活をしている人々のほうであるように見える。あくまでも、小津と成瀬の映画を比較すると、そう見えるだけであって、現実の文化の変化がどうであったかを確かめることは、文化史・社会史の問題として非常に困難であろう。
重要なのは、小津が保守的な中産階級の人々を好んで表現し、成瀬はもっと貧しいが、合理的な生活をしている人々を描いているということである。
それは、婚礼衣装についてだけではない。香川とパン屋の息子・岡田英次とが「デート」をしたり、岡田が「オーソレミーヨ」という外来の歌を口ずさむことからも見えてくる。

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佐分 利信

5.0成瀬映画の真髄、ここにあり

2013年3月12日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

知的

成瀬巳喜男監督の名作と言うと、「浮雲」や「流れる」だろう。成瀬好きの私も、それには異論は何一つないのだが、私の中の成瀬映画一番の名作は、この「おかあさん」だ。

 この「おかあさん」のすごいところは、「浮雲」などよりも、すべてにおいてはるかに抑制がきいていることだ。戦後の貧乏な一家の母親の大変さを描いたこの作品では、家族の者たちが亡くなったり、養えないために人の家に子どもをひきとってもらったりと、常に不幸や悲劇がつきまとっている。ところが登場人物たちは、どんな不幸にも弱音も吐かず、淡々と日常を過ごそうとする。そんな感情を抑制した演出が、観る者の心をうつ。
  また、田中絹代や香川京子たちの微妙な表情の動きだけで、人物の心の内を見せて、セリフで説明をしない、抑制された脚本の素晴らしさも特筆すべきだろう。「浮雲」と同じ水木洋子の脚本の中でも、「おかあさん」が一番、だと思う。成瀬映画、ではなく、日本映画の名作として、映画界は「おかあさん」を語り継いでほしい。

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こもねこ