劇場公開日 1952年6月12日

「成瀬映画の真髄、ここにあり」おかあさん(1952) こもねこさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0成瀬映画の真髄、ここにあり

2013年3月12日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

知的

成瀬巳喜男監督の名作と言うと、「浮雲」や「流れる」だろう。成瀬好きの私も、それには異論は何一つないのだが、私の中の成瀬映画一番の名作は、この「おかあさん」だ。

 この「おかあさん」のすごいところは、「浮雲」などよりも、すべてにおいてはるかに抑制がきいていることだ。戦後の貧乏な一家の母親の大変さを描いたこの作品では、家族の者たちが亡くなったり、養えないために人の家に子どもをひきとってもらったりと、常に不幸や悲劇がつきまとっている。ところが登場人物たちは、どんな不幸にも弱音も吐かず、淡々と日常を過ごそうとする。そんな感情を抑制した演出が、観る者の心をうつ。
  また、田中絹代や香川京子たちの微妙な表情の動きだけで、人物の心の内を見せて、セリフで説明をしない、抑制された脚本の素晴らしさも特筆すべきだろう。「浮雲」と同じ水木洋子の脚本の中でも、「おかあさん」が一番、だと思う。成瀬映画、ではなく、日本映画の名作として、映画界は「おかあさん」を語り継いでほしい。

こもねこ
佐分 利信さんのコメント
2016年2月8日

辛いことばかりの人生の全てを受け入れて、泣きもせずわめきもしない田中絹代の姿に涙を抑えきれません。
そんな中にいるからこそ、香川京子の明るさ、純粋さに観客は救われるのでしょう。
成瀬・水木の傑作だと私も思います。

佐分 利信