「今見ても女性観が古くない」OL忠臣蔵 デブリさんの映画レビュー(感想・評価)
今見ても女性観が古くない
四半世紀前の映画なので、女性のしゃべり方だったりノリだったり25歳までに結婚の目標だったり男性上司からのロコツな女性差別だったり、そもそも「OL」という言葉だったり、いろいろと時代を感じる部分はあるけど興味深い。
クレーム処理の部署に飛ばされた主人公が個人客にお詫びをしに日本列島を北へ南へ飛んでいく。映画の中では会社に酷使されて……みたいな文脈なんだけど、いやその程度のことでそんなにバンバン出張できるんだ、人もお金も潤沢な時代だなと感心してしまう。
会社が乗っ取られそうになって立ち上がるOLたちというストーリーだけど、忠臣ってことでは全然なく、それぞれ自分の感情で動き出す。婚約者がリストラされそうだから、憧れの上司が左遷されたから、自身が株で大損させられたから、など。ノリはめちゃくちゃ軽い。何かといえば乾杯するし、失敗しても「まあ、いいか」で済ます。新社長が決まったときも「(次は)誰なったの。ハゲ? メガネ? (画面の写真見せられ)サルかー」とテンポがいい。どこが忠臣蔵やねん。
それでも、会社が配送センターを閉鎖すると聞いた彼女たちの反応が「そんな大事なこと今初めて聞いたんだけど」「配送センターってうちの心臓部じゃない」というもので、花形部署とか憧れの部署はあっても、それとまた別にビジネスの本質を当たり前に理解している設定になっている。結局、この知らせがきっかけで、会社を解体して売り飛ばすという敵方の目論見に彼女たちは気づくことになる。
配送センターといえば、吉野公佳が美しかった。演技はアレだけど、そりゃ作り手は起用したくなるし見せ場をつくりたくなる。
ふぶき(坂井真紀)が「私、あなたがフォークリフトを磨いているところを見てた。私があなたでも辞める日にはそうすると思う」と言って、その言葉で銀子(吉野)が心を動かすのもいい。女性が仕事に対して持つこだわりとか矜持、ないことにされがちなそういうものが描かれている。人物にほれ込むとかなんとか大げさなことじゃなく、ただ共鳴するみたいに連帯するのが女たちらしくて好きだ。
坂井真紀はこの頃すでに演技に抜群の説得力があって(「私の運命」がこの3年前)、演説シーンをこんなに上手にやれる女優さんも珍しいのではと思った。女優の演説シーンで今ぱっと思いついたのは「人間・失格~たとえばぼくが死んだら」の桜井幸子。引退がいまだに惜しい。
南果歩のヒールもよかった。軽やかなセリフ回し。ふぶきの尊敬する上司を病院で自主退職に追い込んだ後の「お大事に」も自分が負けて去っていくときの「またね」もサックサクに軽くて面白い。負けた後も彼女をみじめにさせない演出も見心地がいい。米国へ帰って上司に「OLって何」と聞かれて「アメリカには決していない人種」とだけ答えるのもよかった。脚本、神山由美子さん。