煙突の見える場所

劇場公開日:

解説

『文学界』に掲載された椎名麟三の「無邪気な人々」を「二人の瞳」の小国英雄が脚色し、「朝の波紋」の五所平之助が監督した。「春の囁き」の三浦光雄、「吹けよ春風」の芥川也寸志がそれぞれ撮影、音楽に当っている。「夫婦」の上原謙、「秘密(1952)」の田中絹代、「女といふ城 夕子の巻」の高峰秀子、「ひめゆりの塔(1953)」の関千恵子を中心に田中春男、花井蘭子、浦辺粂子、坂本武などが助演する他、文学座の芥川比呂志が参加している。

1953年製作/108分/日本
原題:Where the Chimneys Stand/Three Chimneys
配給:新東宝
劇場公開日:1953年3月5日

ストーリー

東京北千住のおばけ煙突--それは見る場所によって一本にも二本にも、又三本四本にもみえる。界隈に暮す無邪気な人々をたえずびっくりさせ、そして親まれた。……足袋問屋に勤める緒方隆吉は、両隣で競いあう祈祷の太鼓とラジオ屋の雑音ぐらいにしか悩みの種をもたぬ平凡な中年男だが、戦災で行方不明の前夫をもつ妻弘子には、どこか狐独な影があった。だから彼女が競輪場の両替えでそっと貯金していることを知ったりすると、それが夫を喜ばせるためとは判っても、隆吉はどうも裏切られたような気持になる。--緒方家二階の下宿人、ひとのいい税務署官吏の久保健三は、隣室にこれまた下宿する街頭放送所の女アナウンサー東仙子がすきなのだが、相手の気持がわからない。彼女は残酷なくらい冷静なのである。--と、こんな一家の縁側に或る日、捨子があった。添えられた手紙によれば弘子の前夫塚原のしわざである。戦災前後のごたごたから弘子はまだ塚原の籍をぬけていない。二重結婚の咎めを怖れた隆吉は届出ることもできず、徒らにイライラし、弘子を責めつけた。泣きわめく赤ん坊が憎くてたまらない。夜も眼れぬ二階と階下のイライラが高じ、とうとう弘子が家出したり引戻したりの大騒ぎになった。騒ぎがきっかけで赤ん坊は重病に罹る。あわてて看病をはじめた夫婦は、病勢の一進一退につれて、いつか本気で心配し安堵しするようになった。健三の尽力で赤ん坊は塚原の今は別れた後妻、勝子の子であることがわかり、当の勝子が引取りに現われた時には、夫婦もろともどうしても赤ん坊を渡したくないと頑張る仕末である。彼らはすつかり和解していた。赤ん坊騒ぎにまきこまれて、冷静一方の仙子の顔にもどこか女らしさが仄めき、健三はたのしかった。……おばけ煙突は相もかわらず、この人達をおかしげに見下している。

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映画レビュー

2.5出来合いの人道主義

2022年10月22日
iPhoneアプリから投稿

「お化け煙突」こと千住火力発電所と、その根元に広がる下町人情模様を描いた作品。心温まるヒューマンドラマではあるものの、ところどころで手緩いアレゴリーや説教じみた人間論が目立つ。

自己認識と他者認識の乖離状態を見る場所によって本数を変えるお化け煙突になぞらえてみせるという発想は確かに力強いが、両者の関連性があまりにも饒舌に語られすぎていて興醒めだった。

また捨て子の赤ちゃんをめぐる中年夫婦と下宿人カップルの人道的懊悩シーンも、赤ちゃんの「無垢なる弱者性」をことさら強調しすぎなのではないかと感じた。

一番残念だったのは捨て子の父親の自殺が明らかになるシーンだ。そのことを知った下宿人の仙子(高峰秀子)は「どんなに苦しいことだって耐えられないことはないんだから自殺なんかしちゃダメ」的なことを言うのだが、これはあんまりにも無遠慮が過ぎると思う。

作中で誰よりも人間存在を深く見つめていた雰囲気のある彼女からこういう言葉が発せられたことで、それまで丹念に積み上げられてきたヒューマンドラマが実のところ上辺をなぞった虚構に過ぎないことが露呈してしまった。自分が立っている地点によって認識なり物の見え方なりに差異が生じるのであれば、他者の死というセンシティビティに対して断言口調でズカズカ踏み込むことがいかに暴力的な行為であるかは容易に想像できるはずだ。にもかかわらず仙子は特に何の留保もなく自殺が悪だと断じてしまった。

おそらくこのシーン自体は物語上それほど重要ではないのだと思う。しかしだからこそ、何気なく発された仙子の言葉には、人道主義的物語の裏側に流れる冷淡さがうっかり垣間見えてしまっていた。

ヒューマニズム映画というのは一歩間違えればただのお説教ビデオに堕してしまう。それだけならまだしも、細部で思慮の浅さを露呈させてしまっているのを発見したときなどはその作品を見たという経験そのものが否定されたかのような無念ささえ覚える。本作がそこまで酷かったかと言われればそんなことはないのだが、では手放しに「ヨッ!下町人情!」と喝采を送れるかと問われれば、それはできないと答えざるを得ない。

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因果

5.0煙突の見える場所とは、人の心の持ちようのこと 大好きな映画の一つになりました

2021年3月16日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

見事な傑作です!
煙突の見える場所とは、人の心の持ちようのこと
人間もお化け煙突のように、見る向きひとつで4本にも3本にも見えるものなのです
一面だけで駄目な奴だと決めつけては駄目なんですね
改めて教えられました

田中絹代49歳です
役所はもう少し若くて40歳位の設定でしょうか
下町のバラックじみた民家の主婦役です
だから粗末で地味な普段着にノーメイク
でもチャーミングなんです
昭和33年、1958年1月のカレンダー
安全日がマーキングされてます
布団にはいって主人の誘いを受けるシーンの可愛いさったらありません!
もう胸がキュンキュンしました

監督の演出は水が流れるが如くお話が進みます
美しい朝靄、夕暮れのシーンも素晴らしい
大好きな映画の一つになりました

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あき240

3.0・ご近所の面々がすごくいい。赤ちゃんのとことか最高 ・デコちゃんチ...

2019年4月17日
iPhoneアプリから投稿

・ご近所の面々がすごくいい。赤ちゃんのとことか最高
・デコちゃんチャキチャキしてていいなぁ
・重い空気が続いたけど明るい終わり方でニコニコした

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小鳩組

5.0高峰秀子

2018年11月6日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

 見る場所によって4本の工場煙突が4本が3本にも2本にも見えるためお化け煙突と呼ばれている。昭和28年当時の世相がわかる序盤。家賃三千円が安くて引っ越すこともできずにいる。隣の家は宗教団体。日中はひっきりなしに「なんみょーほーれんげーきょ」と読経が聞こえてくるのだ。給料が安くて生活が大変苦しい中にも些細な幸福を見出す緒方家だったが、捨て子の存在で大きく変わる。 赤ん坊なんて生んだことがないと主張する弘子。戸籍謄本が二重になっているところもミステリアス。

 よくある赤ん坊騒動の展開なのだが、他人の赤ちゃんを育てることで夫婦愛を描くと同時に戦争被害による命の尊さ・生命力まで考えさせられる。

 中心は上原・田中夫婦の物語なのに、もっとも印象に残るのは下宿人仙子を演じる高峰秀子だ。当時の日本人女性とは違う現代的な娘を演じている。それも戦争によって肉親を失った経験から生きる力を与えてくれるセリフがいっぱい。

 そして、同じく下宿人の芥川比呂志(芥川龍之介の息子)。緒方夫妻のために赤ん坊の父親である塚原を探す努力を惜しまない。しかし、正義感という価値観さえも高峰秀子によって覆させられる。これがまた二人を結婚へと向かわせるという上手いストーリー。ジャンケンによって「愛してる」「信じる」といったことを決めたりするのも面白い。

 シリアスドラマの中にあってコミカルな部分が散りばめられ、映画全体を引き締めているところがすごい。

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kossy
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