「円谷さんの遺書がベースに響いてくる。」駅/STATION とみいじょんさんの映画レビュー(感想・評価)
円谷さんの遺書がベースに響いてくる。
誰も、自分の思い通りの人生を送れない。
オリンピック選手に選ばれるほどの、トロフィー・賞状が家の中に溢れているほどの才能を持っていても…。
思いあう相手がいるのに、嫁ぐのは別の人。フラれた恋人もお祝いしてくれているから、家の都合?
今声高に言われている自己実現なんて発想すらないのでは?
”お国のために””会社・組織のために””家族のために”。
何のために、何をやっているのだか。
そんな社会の在りかたに翻弄されつつも、自身が選んだ”職”への矜持を持ちつつも活きている男・三上。
そんな男を軸としたオムニバス映画。
3人の女優を見る映画。
【直子】
いしださんの一つ一つの表情にやられる。
三上の仏頂面が、いしださんへの同情に拍車をかける。
子役、いらないんじゃないか。いしださんと、高倉さんと、名古屋さんのアンサンブルだけでいいのではと思うほど、いしださんから目が離せない。
【すず子】
小林さん、根津さん、宇崎さん以外にも、あの役者さんも!と次から次に見知った名優たちが…。
根津さんの登場シーンにも息をのんだが、でも、この章の圧巻は烏丸さん。ぷっくりかわいい笑顔の裏に見え隠れする人への不信感。”おばか”な様子の奥に、すべてを見通している様子。たぶん木下の計画なんてお見通しでのったのだろうと思わせる。
【桐子】
倍賞さんの独壇場。
三上からのアプローチにのり、桐子の方が積極的に間を詰めるが、孤独な男と女の孤独の埋めあい、すべてを託すにはという微妙な関係がかえって、桐子の孤独を際立たせる。三上の方が朴念仁で、桐子との未来を思い描いたりしているのと対照的。
そこに現れる男。そうか、こういう展開になるのか。
「そうか、そういうことか」何をどうわかったと言っているのか、はっきりとは映画の中では語られない。自分の人生のことを言っているのか。三上の正体のこと?森岡の行きつく先のこと?なのに、なぜか、あのシーンで桐子がこう言うの、すごく腑に落ちる。
映画は、ところどころ、?が飛び交う。
冬子はどうして義二と結婚しないの?
三上はどうして吉松を気に掛けるの?
警官とはいえ、人を殺しすぎではないのか?射撃の名手という設定なら、手足を狙うとかあっても良いと思うのだが。”健さん”のイメージに引きずられたか。公開当時の刑事ものに引きずられたのか。
すず子はどうしてあの土地を離れなかったのか?木下もまだいるのに。
『鉄道員(ぽっぽや)』を先に見てしまった。
組織の中で、上からの命令に翻弄されて、自分の思い描く人生を生きられなかった話?同じテーマを何度も撮っているの?と思ってしまった。三上の人生に、労りを描いたのが「鉄道員(ぽっぽや)』?
でも、女性を描いた映画と思うと、ぞくぞくくる。
そんな3人の女性達が素晴らしいが、
三上の母が出航する船を見送るシーン。このリアリティに敵うものはない。このシーンに比べたら、ずべて達者な”演技”。
さすが北林さん。