劇場公開日 1967年3月25日

「謎の円盤UFOの元ネタになったカルト的作品」宇宙大怪獣ギララ あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0謎の円盤UFOの元ネタになったカルト的作品

2020年2月27日
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1967年3月
東宝特撮に対抗して松竹も怪獣映画を公開しました
ガメラ対ギャオス公開の10日後です
この1ヶ月後には日活か大巨獣ガッパを公開します
テレビでも東映が半月後にはキャプテンウルトラと仮面の忍者赤影の二つのシリーズをスタートさせています
海外作品でもタイムトンネルが日本放映がスタートしています

この1967年は、なんともの凄い春なのでしょうか!

松竹といえば、小津安二郎、木下恵介といった格調高い人間ドラマのイメージで最も怪獣映画から遠いと思われていた映画会社ですから驚きです

監督は二本松嘉瑞で当時45歳
なかなか監督になれず、木下恵介監督とかの助監督をしていました
38歳の時にハリウッドに光学合成の勉強に派遣されています
その経歴で抜擢されたものと思われます

というかその米国派遣自体、将来特撮映画進出の為の布石であったのだと思います

予算規模やプロモーションの大きさからすれば大作です
それでも彼がその経歴の適性だけで選ばれたと言うより、社内の監督がみんな怪獣映画のようなゲテモノを撮るのを嫌がって逃げて彼だけがその経歴故に逃げることは許されなかったのだと思われます

特撮は日本特撮映画株式会社という、東宝特撮のメンバーが独立して作った会社が担当しています
現役メンバーがアルバイトで関わったりして問題になったりもしています
ですから、特撮映像は東宝特撮と同じルーツを持つものでほぼ同等レベルです
むしろ大映のガメラより上で有るとおもいます

航空自衛隊の当時の最新鋭ジェット戦闘機F.-104Jが大活躍しますが、その模型の精密さはなかなかの出来です
この戦闘機はガメラ対ギャオスでも登場しますが明らかに本作の方が上の映像です
実機のプロポーションを正確に模型化、さらに材質感ある表面塗装、そこには実機にある細かい注意書きのマーキングまで再現されています!
発射されるミサイルもでたらめな形の適当なものでなくサイドワインダーと言う実機に搭載されている本物のミサイルの形状をキチンと再現して発射させているのです!

ギララの形状は、中世スペインの甲冑姿の兵士をモチーフにしており独創的です
着ぐるみも大映のバルゴンよりずっと良いものです
火の玉を吐くのは若干ゼットン風ですがこれは偶然かと思います

アストロボートガンマー号は独創的なスタイルで小松崎茂の影響を排そうとの努力が伺えます
サンダーバードを意識しているのだと思います
しかしサンダーバードにはある、機能や性能を考察した上でのデザインでは全く無いのです
実機のあるジェット戦闘機ではできたリアルさを追求したモデリングは、アストロボートなどにはなされていないのです
つまり国内の特撮には対抗できていますが、海外特撮にはキャッチアップ出来ていないのということです

更にSF考証に光瀬龍というビックネームが記されています
この人は日本のSF小説界において、小松左京が黒澤明なら、溝口研二に相当するような大物です
ハードなSFをバリバリと書き、70年代にはジュビナイルSFの良質な原作をテレビにも数多く提供した人です
本作と同年には、不朽の名作「百億の昼と千億の夜」を発表した年でもありました
しかし、その考証ぶりはあまり伺えません
が、時折思い出したようにハッとするカットがあるのは彼の考証だと思います
アストロボートが軌道を変更するときには、バーニアを噴かしていますし、慣性飛行するシーンもあります
しかしその程度です
2001年宇宙を旅における、A.C. クラークのような役割はとても果たせませんでした
キューブリックのように監督が受け止めることが出来なかったのだと思います

ドラマパートはそれなりに頑張っています
東映の海底大作戦のような特撮映画をなめきった映画作りの態度は見られません
真面目に作っています
ただ監督の腕はもう一つなのは確かで、ゴジラの本多監督には遠く及ばず、ガメラの湯浅監督にも差をつけられているのは明らかです

俳優もたいして良くなく、主演はガメラの本郷巧二郎が如何に特撮映えするいい俳優か良くわかります

ヒロインは白人女優のペギー・ニール
彼女は東映の海底大戦争に出演して目立っていましたので起用されたと思います
見ていて美しいし、演技も上手くはなくても酷くはないです

もう一人の日本人ヒロインの原田糸子は美しいし、スタイルも抜群なのですが、特撮映えしません
松竹のホームドラマならきっと良いヒロインです
本部要員とかの沢山の端役陣の俳優の顔付きもそうなのです
大部屋俳優までそうなってしまうのですねえ
でもみんな一緒懸命に演じてくれています

若き日の藤岡弘も月面基地のレーダー員で出演しています
彼を主演に抜擢してくれたら、どれほど良かったのにかと残念に思います

音楽は当時超売れっ子作曲家のいずみたく
宇宙をイメージした不安をかき立てる音楽をという注文通りの音楽ですが、つまらないです
華がありませんし、耳にも残りません
ガメラの主題歌に相当するものはタイトルバックに流れますが、青春歌謡で子供達にいきなりこれは子供向けじゃねえぞと言ってしまってます
そのタイトルバッグもなんとなく小津安二郎の秋日和みたいな映画のものぽい感じで怪獣映画の雰囲気はまるでありません

ストーリーは大人向けで作ってあります
ギララの名前を子供達に公募して小学生メインにプロモーションを展開しているのに、チグハグです

子供達の軍配はガメラ対ギャオスに上がったのは当然であったと思います

大人もこのストリーで面白かったと満足できる人はあまりいないでしょう

松竹はもう一本特撮映画の昆虫大戦争を翌年に出しますが結局諦めて怪獣映画には戻って来なくなります

政府の輸出振興の補助金で撮られた作品なので、海外でも公開されており、今では世界的にカルト映画として人気があるようです

しかし、本作の最大の価値は何か?
改めて観て初めて気付かされました

何を観るべきか?

それは月面基地のシーンです
2001年宇宙の旅、謎の円盤UFO に影響を与えた元ネタだということです!
ガンマー号が月面のドームが割れて着陸するシーンは2001 年宇宙の旅の同じシーンの元ネタです

そしてヒロイン道子の座る月面基地の回転式の円形通信コンソールはエリス中尉が座るそれそのものです!
彼女はエリス中尉なのです
月面基地内部の休憩室のインテリアもそうです
月面基地のユニフォームはシャドウ本部の未来的制服そのものです
衣装デザインの未来的スタイルとディテールだけでなく、生地の質感、ベージュの色目までそのままパクリのレベルです
それにきづけば、外人の月面基地の司令官と日本人のFAFC長官を合体したのがストレイカー司令官だと分かります
長官の片腕の外国人博士はフリーマン大佐です
ならばリーザの科学者ぶりはレイク大佐に反映されていることも分かります
佐野はフォスター大佐です
FAFC 富士宇宙飛行センターの様子はシャドウ本部そのものです
宮本通信員は、シャドウ本部の通信員です
愚痴ばかりこぼす外国人ドクターはジャクソン医師です

これは驚きでした!
ここまでなぞっていたとは!
オタクならこれを確かめるだけでも観る値打ちも意義もあります

あき240