劇場公開日 1959年11月17日

「杉村春子の為の映画 彼女の凄さ、日本一の女優である理由が存分に示さています」浮草 あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0杉村春子の為の映画 彼女の凄さ、日本一の女優である理由が存分に示さています

2020年1月14日
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鑑賞方法:DVD/BD

松竹でなく大映作品です
前年1958年の彼岸花で大映のトップ女優山本富士子を松竹が借りた、そのバーターで小津監督が大映で撮影した作品とのこと

なので本作では彼女以外の残る大映のトップ女優が出演します
もちろん中村鴈治郎は当時大映専属です

山本富士子に並ぶ大映の看板女優となれば若尾文子
そして大映の最終兵器、数々の海外映画賞受賞に輝くグランプリ女優の京マチ子です

となれば京マチ子がヒロインで、若尾文子がその対抗軸と勝手に思い込んでしまいますがさにあらず!
実は本当のヒロインはなんと杉村春子です

京マチ子35歳、若尾文子25歳、杉村春子53歳

京マチ子は女性が最も美しくエロチックである年齢のピークにあります
若尾文子は若くピチピチしています
しかし、杉村春子はこの二人を向こうに回してヒロインとして君臨しているのです

最も駒十郎を愛しており、彼の本質を理解をしているのは彼女です
それを何気ない演技で完全に伝え納得させる凄さ

駒十郎が彼女の家で酒を呑んでいるシーンで、彼女は呑んでいる本人が徳利に酒が無くなっていることに気付く前に徳利を差し替えに行って酌をすすめます

彼から妬いているのかと問われても、平然と聞き流す時の表情
そして「お父さんなら、また旅に行きなはった」と悲しみをこらえてこのままでええんやと伝える表情
その上、彼女は駒十郎とすみ子が結局どうなるかまで見通しているのです

役への理解、登場人物の関係性への洞察力
杉村春子にしかできない至高の演技力だと思いました

日本一の女優とは誰か?
森光子でも、山田五十鈴でも、高峰秀子でも、田中絹代でも、原節子でも、岡田茉莉子でも有りません
それはこの杉村春子です

本作は杉村春子の為の映画です
彼女の凄さ、日本一の女優である理由が存分に示されています

盆提灯の青白い灯りと彼岸花の赤の対比は溜め息の出る美しさです
ラストシーンも蒼い闇夜の中に走り去っていく列車の二つ並んだ赤い尾灯でした

前作の彼岸花からカラー撮影となり、計算され意図的な演出として各シーンに配置された赤い小道具の使い方は大変に有名です
それは、本作でもポストや郵便局の自転車などが暗示しているように演出の一環として継承されています

舞台は旅芸人の一座が連絡船で村に来る冒頭のシーンを観るとどうも三重県志摩市浜島の辺りの設定のように思います
近鉄の終点賢島駅から西に15キロ程ですが、当時は山を抜ける道路事情が悪く陸上交通では恐ろしく時間がかかったようです
賢島から連絡船が今も出ています
今は車ですぐです

ミキモトパールの養殖の本拠地のため、昔から裕福な漁村で温泉もでて温泉街もありますから、旅芸人の一座が来てもおかしくはありません

伊勢海老などの海の幸を贅沢に使うご馳走をだす立派なホテルや旅館が今も幾つか有ります
海にせり出すようなテラスから太平洋が夕焼けに真っ赤に染まるのを眺められて最高のひとときを過ごせました

この辺りは伊勢ではなくて、志摩地方が正しい呼び方です

小津監督はここと同じ三重県の出身ですが、松坂市ですので、北に60キロも離れた伊勢地方の方になります
松坂市は、あの松坂牛で有名な町で伊勢地方の中心的な大きな町です

あき240