「北の大地に集う人々の、不器用な生き様が交差する。健さんを前にして、襟を正さない男はいないね。」居酒屋兆治 たなかなかなかさんの映画レビュー(感想・評価)
北の大地に集う人々の、不器用な生き様が交差する。健さんを前にして、襟を正さない男はいないね。
函館の街で小さな居酒屋「兆治」を経営する藤野英治と、彼を取り巻く人々の人生を描いた人情ドラマ。
ガキ大将気質を持つ、英治の学生時代の先輩である河原を演じるのは『黒い十人の女』『細雪』の伊丹十三。
は〜るばるきたぜ函館へ〜♪
高倉健と田中邦衛という、北海道が似合う二大俳優がメインを張る健さん映画。
とはいえ舞台は網走でも富良野でもなく、函館。
男と女の悲恋ものって、やっぱり函館がよく似合う。
小樽でも釧路でもない。やっぱり函館なんですよね。
んで恋に破れた女がすすきのの寂れたスナックで水商売なんかしてね。
んで男が迎えに行くんだけど、女は酒の飲み過ぎで身体を壊しちゃってたりして。
んで男の胸の中で、幸せそうに死んでいったりしてね。んで男がううぅ…、なんて泣いちゃったりして。
今や懐かし昭和ロマンの世界ですね。
まぁ完全にこの映画はこのシナリオの通りで。ベタといやベタなお話。
でも、やっぱり主人公が高倉健だと、一段も二段も高級な作品になっちゃいます。
健さんが出ているだけで、その映画のジャンルが「恋愛」でも「人情」でもなく、「高倉健」になってしまうという凄み。
この当時の健さんって50代前半くらい。渋すぎるだろっ💦
今で言うと阿部サダヲとか福山雅治くらいの年齢だと考えると、人生2周目かっていうくらいの貫禄ですよね。
居酒屋の大将を中心とした人情ものだと、近年ヒットしたドラマ『深夜食堂』がぱっと思い付くんだけど、なんとなくヤクザっぽい主人公の雰囲気とか店内の様子とか、かなりこの映画からインスパイアされているだというのがわかる。
癖のある常連客もこの映画から影響を受けているんだろうな。
この映画も、連続ドラマにしたらいくらでも物語を作り出せそう。
『幸福の黄色いハンカチ』で共演していた武田鉄矢が常連客としてカメオ出演するなど、健さんの作品を殆ど観ていない自分のような人間でもニヤッと出来るところがある。
小松政夫だの大滝秀治(ちょっと若い!)だのと言った、今は亡き名優たちがお客として登場するのも嬉しいが、音楽好きの立場からすると細野晴臣の登場には驚いた。
デカデカと「市役所」と書いてあるタンクトップを着ているという意味分からなさ。
意外と80年代にはこういう活動もしていたんですね。
健さんと田中邦衛がイチャイチャするという、漫才コンビを組みたいとビートたけしに相談するくらい仲が良すぎるおっさん2人のブロマンスとしても萌える。
2人がいきなり渓流釣りに行くところなんか、ランドクルーザーのCMかなんかが始まったかと思っちゃった。
この2人のイチャイチャには癒されますが、クライマックスの会話には泣かされますね。
かつて英治を会社から追い出した憎き専務が癌で倒れたと聞き、「あの人にはいつまでも元気でいてもらいたかったけど、病気になったのがお前じゃなくて本当に良かった」と語る健さん…😢
英治の不器用さがよく表された名シーンですなぁ。
英治が不器用なのはもう健さんだから仕方ないんだけど、登場人物がみんな不器用な生き方しか出来ないっていうのがまたいいですね。
いつまでも英治のことを忘れることが出来ず身を堕としていくヒロインのさよ。幼なじみって設定だけど、どう考えても英治と年齢差あるだろ、とかは気にしたら負け。もっと上手く生きていくことだって出来ただろうに、ああなってしまうところに無常を感じる。
健さんにぶん殴られる河原だって、実は面倒見のいいおっちゃんなんですよね。本当に不器用な人たちだ。
結局「兆治」立退の件は有耶無耶になった気もするけど、まぁそれはいいや。
最後に健さんが「元気出して、いこうぜ」って言ってくれるんだから、そりゃ元気出していかないとダメっすよ。
プロ野球の夢も絶たれ、愛する人から自ら身を引き、会社からも追い出され、それでもなお前に進む健さんの姿こそ、日本男子の目指すべき姿が集約されているように思う。
健さんみたいな男になるため、今から修行しようと思います👍