「単純にしてオリジナリティーに溢れた名作」有りがたうさん 松井の天井直撃ホームランさんの映画レビュー(感想・評価)
単純にしてオリジナリティーに溢れた名作
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極々単純な話である。
《有りがたうさん》と呼ばれ親しまれている乗り合いバスの運転手に上原謙。
彼の運転するバスに乗り込んで来る乗客達の人間模様が、オールロケーションで綴られる。
只それだけの話。
しかし、何と言う豊潤な話であろうか。
みんなから慕われている《有りがたうさん》とのエピソードが語られながら、大きな柱となるのが、親子の話と女の振る舞い方です。
暮らしが貧しくて娘を東京に働きに行かせなければならない母親と娘。
この親子道中の話を立て板にして、色々なエピソードが入り込んで来る。
離れたくは無いが離れて暮らさなければ生きてはいけない。終始悲しみに暮れる親子。
いつしか、自分の故郷がどこだったのかも忘れてしまった…かの様に振る舞う旅の女。人生の酸いも甘いも噛み締めたその女には、そんな親子の甘いやり取りを鼻で笑っている風に見える。
そして終盤には、労働者として道路工事の作業をしている朝鮮人の娘が登場する。
「私も日本人として、自分が作った道路を走ってみたい…」と語る。
彼女と《有りがたうさん》との別れの場面では、トンネル自体がフェードアウトの役目をする秀逸な編集でした。
そんな悲しいエピソードは、まだ高度成長どころか、戦争前の貧しい日本には極々当たり前の出来事であった事でしょう。
そんな最下層の人達を憐れむでも無く、ユーモアを交えて慈しむ様に暖かな目線で描いた素晴らしい作品でした。
一見簡単そうに見えて、誰にも真似の出来ないオリジナリティー溢れる名作だと思います。
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