雨あがるのレビュー・感想・評価
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黒澤明の遺した創作ノートから映画化。
脚本は黒澤明となっていますが、黒澤の創作ノートに台詞はなく、
覚え書きとト書だけですから、脚本は監督の小林堯史が原作と照らし合わせ、
創作ノートのエッセンスを色濃く忍ばせたと思われます。
2000年:監督は黒澤明の一番弟子・小林堯史。原作:山本周五郎の短編。
黒澤明は1998年に亡くなっています。
息子の黒沢久が葬式で「雨あがる」の映画化と監督を小林堯史に任せると
告げて完成したのが本作品です。
とても清々しい心洗われる作品。
私は特に『増水した川』に注目した。
本当に3日間位降り続けたのを、待っていたのではないか?
この増水した川の猛々しさ、自然の凄さが、無力な人々を浮き彫りにしている。
映画は剣術の達人だが気持ちが優しいのが災いして、
思うように仕官(藩主に仕える侍)になれない浪人に、
寺尾聰。
その慎ましい妻に宮崎美子(実に美しく清純)
夫婦愛の物語でもある。
そして黒澤明が特に言いたかったことは、勝者の優しい慰め。
それは敗者には耐え難き屈辱。プライドをズタズタに傷付けるのだ。
と言うこと。
剣術指南番への登用試験で、寺尾聰の腕前を試すため、下級武士が対戦する。
何人対戦しても歯が立たない。
焦れた藩主が寺尾に槍で掛かってくる。しかし藩主は敢えなく池に落とされる。
「ついつい大人げなく本気になり・・・」
寺尾の言葉に烈火の如く猛り狂う藩主。
このプライドをズタズタにされる藩主を三船敏朗の長男・三船史郎が演じているのも
何かのご縁。
この映画は品の良い、いい話ではあるが小品。
小林堯史はその後一人立ちした監督になり、
「博士の愛した数式」
「明日への遺言」
「蜩の記」
などの良作を撮っている。
最新作が「峠最後のサムライ」
好きな監督である。
【”何をしたかではなく、何の為にしたかが大切。”黒澤明監督の優れた脚本を、品性高き武家夫婦を演じた寺尾聰と宮崎美子が更に高めた逸品。】
■武芸の達人でありながら、お人好しな性格が災いして仕官になれない三沢伊兵衛(寺尾聰)とその妻(宮崎美子)は、旅の途中、長雨に降られてある安宿に投宿している。
宿の客たちは、徐々に苛立ちを見せ始める。
そんな折、若侍同士の果しあいを仲裁した三沢は、その腕を見込まれて藩主・永井和泉守の城に招かれる。
◆感想
ー 内容は巷間に流布しているので割愛。-
・三沢夫婦が、お互いに敬語で交わす会話の心地よさ。
・三沢伊兵衛が、宿の皆の事を考えて、掛け試合をし、金子を稼ぎ宿の皆に振舞うシーン。
ー 皆から、疎まれていた夜鷹の女(原田美枝子)にも、温かい言葉を丁寧に掛け宴に誘う、伊兵衛の姿。前夜までと違って、楽しそうに酒を飲む人々。ー
・三沢伊兵衛は、藩主に見込まれ、剣術指南番に取り立てられる直前まで行くが・・。
<今作では、人間にとって真に大切な事は何かという事が、確かに描かれている。剣術指南番任命を断りに来た、家老に対して三沢伊兵衛の妻が、静かに微笑みを浮かべて言った言葉。
”何をしたかではなく、何の為にしたかが大切。”
今作は、黒澤監督の遺志を継いだ小泉監督が見事に紡いだヒューマン時代劇である。>
優しさの本質を問う緑の獅子賞受賞作品
緑の獅子賞って、緑を一番美しく撮ったで賞のこと?と勘違いするくらいに、緑をはじめとする景色の色が、心にすうっと沁みわたる。
そんな美しい調度の宿の一室に佇む妻。宮崎さんてこんなにいい役者だっけ?凛とまっすぐに背がのびたままの礼をはじめとして、一つ一つの作法がゆったりとしたテンポで美しくも心が落ち着き、すがすがしくなる。ジーンズ姿のあのCMのイメージが強いからビックリした。
対して原田さんの、いかにも場末の夜鷹の荒々しい造作。別の映画の凛とした佇まい等と比べると別人のよう。
そして宴会での、野太い民謡?
女性陣が際立っている。
松村さん、下川辰平さん、奥村公延さんとかさりげないところでこの役者が?というサプライズもある。
民謡のような宴会での男衆の歌舞も鳥肌が立つ。
一つ一つの要素は素晴らしく、宴会も混ざりたくなるほど楽しいのに、何故が不協和音。一つ一つの要素が際立ち、お互いが補完しての一枚の画になっていない。
三船さんがいい。やんちゃな子どもみたいな星の王子様がそのまま大人になったみたいなお殿様がいい。一本調子で、落ち着きのなさが演技なのか、素なのかわからないけど妙にはまっている。奥方・家老達に諌められ、近習達に手のひらでころがされるも愛されているお殿様っぷりがいい。
そして井川さん、吉岡さん、寺尾さんもいつも通り、役をきっちり演じてくださる。
ただ、説教節の爺さんて何?説教節という義太夫っぽいものがあるのか?ただ説教臭いからのあだななの?
とか、
「貧しいものがお互い助け合って~」とかが台詞で語られるだけでいまひとつよくわからないのが残念。
宿屋のシーンも、助け合いの場面あったけ?いがみ合っているが主人公の機転で、仲直りしたようにしか見えなかった。
まあ、しいていえば、妻が嫌っていた主人公の行いが、とっても意味があるんだと言うことをいいたかったんだろうけど、もう少し庶民とのやりとりを丁寧に描いてほしかったなあ。宴会場面よりも。
話の筋はふに落ちない。
やさしさ、謙虚さって何?主人公は本当に優しいの?とも思う。お殿様の言葉が端的にそれをついている。
また「人の地位を奪うより~」というオチも一理あるけど、正式な御前試合はすっぽかして闇打ちするような指南役に席をゆずっていいのか?とも思う。
現代に置き換えると、正直に丁寧な仕事をする業者が主人公で、談合で手抜き仕事でもそれなりの委託料とるのが現地の道場主だよ。それって、藩主・藩士に、税金払っている庶民に対して、不誠実だと思うけど。
とはいえ、人物造形は面白い。他の作品なら、職につかずに己を通したい夫と、生活のためにどうにかしろという妻だけど、この映画では反対。
主人公は強く見せないのが処世術なんだろうけど、どこかで自分の力を認められたいとも思っている。どこが謙虚なんだ。そんな下心見え見えの嫌味な男を、さらっと気持ちの良い男に見せてしまう寺尾さんはやっぱりすごい。
とも思うけれど、どこかで主人公を三船敏郎さんや仲代さん、萬屋錦之助さんがやったらまた違う雰囲気になっただろうなと惜しい。叶わぬ夢だが。寺尾さんだと、常に「手を抜いてますよ」的な腰砕けが目立つし、要領よく立ち回ってこじんまりまとまっていて、それはそれでいいけれど、ちょっとつまらない。”毒”が見えてこない。そして何より、寺尾さんだと、ダメ男のかわいらしさはあるのだが、無骨な男に見え隠れするかわいらしさは見えてこない。
黒澤作品は『羅生門』『生きる』『隠し砦の三悪人』『用心棒』『椿三十郎』『天国と地獄』『赤ひげ』くらいしか観ていない。カラーになってからは見ていない。黒沢監督が監督されていたのならどう仕上げったのだろう。
小林作品は『明日への遺言』『蜩ノ記』と観て、3本目。この2作とも、ひょうひょうとして人当たりが良いながらも、己が信じた生き方を、家族の願いも無視して貫く、腹が据わった男を描いていた。藤田さん・富司さん等役者に恵まれて、特に『明日への遺言』は何度も見直したいバイブルに仕上がっている。けれど、人の良さの方が前面に出てしまって、男の非情さや死をも辞さない狂気の部分が足りない。塩ひとつまみ足りない。
この作品の主人公は、まだ仕官したくてうじうじしていて、挙げた2作とは違うけど、うん、やっぱり塩ひとつまみ足りない。
例えて言うならさっときれいに作った澄まし汁。 奥底に色々なものが沈みつつも、上澄みが透き通っているようなコンソメのコクが足りない。
『生きる』『天国と地獄』は構成が見事だった。『羅生門』『赤ひげ』はそれぞれのドラマの掛け合いが、重層的に重なり、唯一無二の作品として昇華していた。『隠し砦の三悪人』『用心棒』『椿三十郎』は、RPGにも似た、先の見えないスリリングさ=緩急が見事だった。特に殺陣や台詞のスピード感。そして、その映画を盛り上げる音楽。『用心棒』なんてオープニングの侍が歩く姿を追っただけの楽曲を聞くだけで、物語の幕開けにワクワクしてしまう。何度も観ているのに。
でも、この『雨あがる』にはそれがない。山間を歩くが如く、緩やかな上り下り、木々に覆われて先の見通しが立たないところから、ちょっと休憩できるところ、視界が開けるところはあるけれど…。
と、巨匠と比べてもと思うが、この作品は「黒沢監督の遺稿の映画化を黒沢組で」を売りになさっているので、つい比較したくなる。
とはいえ、黒澤作品のイメージの大作(シンフォニー)ではないけれど、後味の良い小品(セレナーデ)です。
てるてる坊主
剣の腕が立つのに、物腰が低くて、逆にそれが人の勘にさわるという、残念な浪人。就職先を探して放浪中。演じる寺尾聰、無精髭が似合うよなぁ。
その妻、どんと構えて先回り、愚痴も言わずに黙って夫を支える。宮崎美子がにこやかにしっとりと演じている。いやー、すごいきれいだわー。
長雨で足止めを食う間に、ひょんなことからその地のお殿様に気に入られ、剣術指南役にスカウトされる。しかし、それを快く思わない連中が…。
あまりにも飄々としていて、さらさら流れる春の小川のよう。これが「たそがれ清兵衛」のように、意に反したことをやり遂げるなら、見てる方も心が動くんだけど。モラトリアム時代劇とでもいうか、「また就職ダメだったー、でも次行くか」って感じが、今の時代の人っぽい主人公だった。
BS日テレ特選時代劇にて。
際だったたみの賢妻ぶり
黒澤明が死んでしまっていたのが残念
「雨の降らないうちに、屋根の修理をせよ」
アルツハイマー病でまっ先に現れる症状に嗅覚障害がある──河出書房新社『人類の進化が病を生んだ』
アルツハイマー病の脳は穴が36個空いた屋根だと博士が言うように、そのひとつを塞いだだけでは、雨漏りは止まらない、つまり、病気の進行を止めることはできないのだ。(中略) アルツハイマー病の最も重要な原因のひとつは炎症であり、リーキーガットは全身性の炎症を起こす、最も一般的な理由のひとつ(中略) リーキーガットと炎症は、屋根に空いた修復すべき36個の穴の2個(中略) 少なくともこの2つの穴は、日本におけるアルツハイマー病治療の盲点──ソシム『アルツハイマー病 真実と終焉』
一度死んだ脳神経細胞は生き返らないのに、どうして認知症を改善することができるのか? もっともな疑問です。が、答えはきわめてシンプルです。「生き残っている脳神経細胞が、死んだものの分まで働くようになればいい」のです。──三五館『認知症はもう怖くない』
古いことわざは正しい。「雨の降らないうちに、屋根の修理をせよ」──英治出版『魂を売らずに成功する-伝説のビジネス誌編集長が選んだ 飛躍のルール52』
雨は、いずれあがると思うのですが、屋根の修理をしておく必要がある、ということだと思います。スピンオフ的な解釈ですが。
黒澤明に捧げる作品だとか。 主人公夫妻がいい人すぎる。話のスケール...
こんな時代劇もあってもいいかな
下級武士や浪人の話は庶民的であり心暖まる。城の藩主に招かれるとな...
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