「岩下志麻に頼り切り!」悪霊島 jin-inuさんの映画レビュー(感想・評価)
岩下志麻に頼り切り!
1969(S44)年、広島の実在しない島、刑部島(おさかべじま)が本作の舞台です。橋が渡っていないらしく、島へ入る手段はカーフェリーだけであり、外の世界とは物理的に隔てられています。島には、まるで戦前のまま時間が止まっているかのような風景習俗が残されています。そんな小さな刑部島の中で、平家の血を引くという名家、刑部家vs網元の越智家が憎み合っている様子。その原因は、刑部巴と越智竜平の悲しい身分違いの恋がありました。それが叔父である刑部大膳にばれ、力ずくで引き離され、それ以来2つの家の関係は壊れたままのようです。
本作の主人公は中年の和服美人、刑部巴さん。婿養子である刑部守衛は刑部神社の神主ですが、複数の愛人を囲う俗物です。刑部神社と刑部家は代々直系の女性により守られてきたらしい。
島を捨てアメリカへ渡り事業で成功し大金持ちになった越智竜平が島へ戻ってきます。目的は島に一大レジャー施設を建設すること。下準備として、刑部神社へ黄金の矢とか神輿とか、金にまかせて寄付を惜しみません。
昔の日本では、双子が生まれる事を忌み嫌う地域があったとのこと。本作でも刑部大膳・天膳、刑部巴・ふぶき(天膳の子)、刑部太郎丸・次郎丸(巴の子)、刑部真帆 / 片帆(巴の子)と4組の双子が出てきます。そして彼らはやはりみな引き離されて育つ運命にあったようです。出生後すぐに亡くなった太郎丸・次郎丸以外は。アメリカ帰りで資本主義の権化のような男、竜平の口から「畜生腹…」という言葉が聞かれます。
平家の落武者を匿った島の歴史。
家柄の差により引き裂かれた若い男女。
双子は不吉という迷信により引き裂かれた者たち。
そういう特殊な背景の中で、連続殺人事件が発生します。
●本作の脚本について
多くの登場人物をうまく捌けていません。原作のつまみ食いみたいになっており、説明不足が目につきます。例えば越智吉太郎は、なぜ巴に付き従っているのか、映画を観ただけでは分かりません。青木修三、妹尾松若、荒木清吉、山城太市ら犠牲者の詳しい背景は描かれません。死体と骸骨のみの出演です。
●演出、美術、音楽について
演出も音楽もありきたりで新鮮さを感じません。何千万円も払って主題歌にビートルズの曲を使用していますが、それで映画が面白くなるわけではありません。死体は作り物感満載のやる気のなさ丸出しです。主題歌や有名俳優に金かけるよりもっと美術に金使った方がよかったんじゃ?
●キャスティングについて
金田一耕助 - 鹿賀丈史(いつも通りの鹿賀丈史)
三津木五郎 - 古尾谷雅人(今回の事件で彼は成長したのか?)
越智竜平 - 伊丹十三(まったくの無駄遣い!)
真帆 / 片帆 - 岸本加世子(お茶の間顔で怪奇ミステリー感まるで無し!)
刑部守衛 - 中尾彬(今回は存在感発揮できず…)
吉太郎 - 石橋蓮司(大奮闘!)
女中とめ - 根岸季衣(ミニスカはいて奮闘!)
巴御寮人 / ふぶき - 岩下志麻(夫を支えるために八面六臂の大活躍!)
下男として巴に尽くし、猟銃を手に野山をかけずり、中原中也や折口信夫のファンで、「現代人が失ってしまったもの。静かで激しい拒絶だ」と机に彫り込むナイーブな男。そんなわけのわからない複雑な吉太郎を石橋蓮司が大熱演。女装して全力疾走するシーンには笑いを禁じえません。
●テーマについて
大膳のセリフ「人間の尊厳を簡単に放棄するやつは報いがある!近頃の人間どもは放棄することに慣れて守ることを忘れている!何が自由だ何が解放だ!己の魂の在処も守れず
戦後は解放されたとほざく…。血が濁っても平気なやつはドンドン死ねばいい!!」
何と闘ってるのか意味分からない…。そんな必死にならんでも戦後日本にはちゃんと天皇家があるじゃない。もうちょっと肩の力抜いて気楽にやっていこうよ。Let it be…。
刑部家の生き残り真帆さんは白装束で島を出ていくフェリーを見下ろします。刑部家と刑部島の未来が安泰であるのを示唆したシーンなのでしょうか。それとも島に囚われた彼女の暗い未来を示唆しているのでしょうか。