「不思議な余韻と共に、去り行く一つの時代と金田一」悪霊島 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
不思議な余韻と共に、去り行く一つの時代と金田一
原作は横溝正史最後の長編小説。
金田一にとっても『病院坂の首縊りの家』と共に晩年の二大難事件の一つ。
原作を読んだのはだいぶ昔。
本作を見たのもだいぶ昔。VHSで。
その後また見たいと思い、近場のレンタル店を散々探し回ったが、見つからず。
そしたらつい先日、U-NEXTで発見! チョー嬉しい!
早速見ちゃったね。
金田一は電車の中でヒッピー青年・五郎と出会い、彼は瀬戸内海のある島へ行く船に乗るという。
金田一もまたある依頼でその島に向かっていた。
島で、別件の捜査で来ていた旧知の磯川警部とばったり。
警部から依頼者が転落死し、謎めいた言葉を残した事を知らされる。
「あの島には悪霊が憑いている…」
五郎が島を訪れた理由、金田一への依頼、警部の事件…。
島に蠢く人間模様、纏わる因縁、そして…。
一体何が起きようとしているのだ、この刑部島で…。
事件から10年後、TV局のプロデューサーとなった五郎の回想を導入部とし、物語が始まる。
横溝正史最後の作品なだけあって、これまでのエッセンスを凝縮。
閉塞された封建的な孤島、おどろおどろしく血なましく、愛憎と哀しさと…。
ミステリーのキーでもある“シャム双生児”、キャッチコピーの“鵺の啼く夜に気を付けろ”が不気味さを盛り上げる。
横溝ミステリーの王道。
確か原作は上下巻の大長編篇。今となっちゃあ細かい所はうろ覚えだが、多少脚色されてはいるものの、あの大長編をよく忠実に簡素化して見易くしたもんだ。
公開された1981年は(ちなみに私が産まれる一年前)、金田一映画ブーム終焉の頃。
この後専らTV作品となり、次の映画作品は15年後の1996年の市川崑監督の『八つ墓村』まで待たなければならない。
云わば、区切りでもあり、一旦最後の角川金田一映画。
監督は篠田正浩。芸術作品に手腕を発揮している篠田監督にとって初の本格ミステリー。手堅く纏めてはいるが、同じ金田一題材でも市川崑ほどの才は感じられず。
が、名カメラマン・宮川一夫による映像、湯浅譲二の音楽は効果を上げていた。
弱かったのは見易くしたあまり、トリックなどが薄々感付いてしまった脚本。真犯人の設定である○○。だって、一度も一緒に映った事が無く、いつも台詞上のみ。これじゃあ察しが付く。この設定、映画だけらしいが、吉と出たか凶と出たか。
豪華で個性的でユニークなキャストは楽しめる。
金田一は鹿賀丈史。飄々とした金田一像は石坂や古谷にも劣らず、個人的には歴代金田一の中でもお気に入りの一人。本作一本だけだったのが残念。
物語のキーマンである五郎役に古尾谷雅人。見てる時にふと気付いたが、この人、ジッチャンと孫、両方出た事になるね。
磯川警部に室田日出男。
陰陽の双子の娘役に、岸本加世子。
島の有力者に、金田一作品常連の佐分利信。
島出身で、島をレジャーランド化する計画を推進するアメリカ帰りの富豪に、伊丹十三。
中でも強烈インパクト残すは、監督夫人であり、巴御寮人役の岩下志麻。時にしっとりと、時に妖艶に、時に野村版『八つ墓村』の小川真由美に匹敵する恐演。
本作でとりわけ話題にされるのは、「レット・イット・ビー」などビートルズの楽曲が主題歌に使用されている事。
これが権利上の問題で暫くソフト化されず、見たくても見れなかった理由。
やっとソフト化されたものの、ビートルズの楽曲はカバー。確かにオリジナルではなかった…。
冒頭、TV局で働く五郎の元にジョン・レノン暗殺のニュースが入る。
奇しくも本作完成直後に原作者、横溝正史が永眠。
作品のラストシーン。島を去る五郎と磯川警部は金田一を見掛け、声を掛ける。無音で、そこに「レット・イット・ビー」が流れる。
何とか言うか、一つの時代が去り行くような、非常に印象的なラスト。
人によって受け止め方あるだろう。
身の毛もよだつ事件だった。
でも、あの島に行き、あの人に出会って…
今思い返せば、懐かしく、ぽっかり心に穴が空いたような、何処か切ないような…
不思議な余韻が残る…。