劇場公開日 1960年11月13日

「夫の七回忌で始まり娘の結婚式で終わる」秋日和 talismanさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5夫の七回忌で始まり娘の結婚式で終わる

2025年2月3日
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鑑賞方法:映画館

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秋子(原節子)と娘のアヤ子(司葉子)は二人とも仕事をしている。母は二十歳で結婚し今は40代半ば、娘は24歳。なんでこんなに年齢を覚えているかというと、アヤ子の年齢が何度も会話に出てくるからだ。夫を亡くした秋子は美しいゆえ彼女の年齢もテーマにのぼる。それを話してるのは秋子の夫の友人でそれなりの社会的地位に居るおじさんトリオだ。一人は妻に先立たれた大学教授であわよくば秋子と再婚できたらと思う。まずは未亡人の母親を「片付けなければ」娘のアヤちゃんは「家を出られないだろう」ということだ。嫁にやる話が多い小津安二郎の映画の中でもこの三バカおじさんのせいでなんだか下品で嫌な気持ちになる会話が多かった。それがとても残念だった。

だから女性達は一層、清く輝き逞しい。原節子は地味な紬の着物を美しく着こなしフランス刺繍の先生をしている。爪はきれいに伸ばして形も整えられシルバー色のネイルをしている(それにはビックリ!)。亡き夫が英国で購入したパイプは夫友人らに形見分けする。娘のアヤ子はワンピースとパンプス着用で商社勤め。でも母娘の住まいは質素なアパートでトイレはフロア共同で男女共用だ。だからこそ娘は「こんなアパートにお母さん一人残してお嫁になんか行けない」と言うんだろう。

娘の会社友達の百合子(岡田茉莉子)はアヤ子の住まいの場所を知っているし、アヤ子の母も百合子のことを知っている。百合子は、アヤ子の亡くなった父の三バカ友達に文句を言う程に元気で勢いのあるチャキチャキの寿司屋の娘だ。でも彼女だって実は淋しい。自分の母親は亡くなり父親は再婚している。彼女の明るさと強さの裏には寂しさがある。

紆余曲折を経て結婚に至った娘がアパートから去り一人佇む原節子の表情には喜びと寂しさと満足が溢れていた。今まで専ら娘や嫁の役を演じていた原節子が、娘に気遣われる母親役になって初めて彼女の本当の表情と顔が見えた気がした。

おまけ
七回忌で妻も娘も黒の喪服の着物で驚いた。美しい二人が並んだ様子は姉妹のようだった。今は喪服の着物は告別式までで、一周忌以降はもう洋服だろうなあと思った。

talisman