「ライトな中にもチラつくシビアな面」あ・うん 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
ライトな中にもチラつくシビアな面
冒頭、鼻歌を歌いながら旧友を迎える準備をする高倉健。
こんな高倉健を見るのも珍しい。
寡黙で無骨で漢の中の漢のイメージが定着しているが、今作では、よく笑っておちゃらけてライトな印象、それでいてダンディーで優しいおじ様。
プライベートでは面倒見が良くてお喋り好きでユーモラスな面もあったという高倉健。ひょっとしたら素の顔に近いのかも。
でも、ぐっと内に秘めたもの、雨や雪の中に佇む姿などはやっぱり格好よく映える。
監督は降旗康男、撮影は木村大作とお馴染みだが、原作は向田邦子。
高倉健が向田邦子作品に出演というのも何だか新鮮。
映画はほのぼのとした文芸作品、上品で感動的な大人の喜劇になっているが、ちょっと調べてみたら原作はシビアな要素もあるようで、映画もその影がチラつく。
20年来の戦友にして親友である門倉と水田。
門倉は水田の妻・たみに想いを秘めている。たみも門倉に想いを秘めている。
それを知りながら友情を続ける水田。
不思議な三角関係はずっと平穏である筈だったが、ある時から亀裂が。
昔、女関係で女房泣かせだった門倉。その妻には嫉妬深い面が垣間見れる。
水田の娘・さと子は一度見合いを断るが、その相手と密かに“プラトニック・ラブ”な交際を続ける。が、その青年はアカの容疑で特高に捕まる。
時代は昭和初期。
木村大作の撮影、村木忍の美術、ベテラン二人の手腕でモダンでノスタルジックな昭和の雰囲気を醸し出すが、日本はこれから…。
作品の中からも戦争の足音が聞こえる。
それを思うと、さと子と出兵する青年の別れ、門倉と水田とたみの雪の夜のラストシーンは悲しく、儚く、温かくさせるものを感じさせずにはいられない。
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