劇場公開日 1964年9月19日

「正に愛と死を見つめてという内容です」愛と死をみつめて あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0正に愛と死を見つめてという内容です

2020年8月31日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

3年間の400通もの文通を本にまとめたものを映画化したのが本作だそうです
だから現代人のすれた目からすれば、どうよと思うほどのベタなお話なんですが実話なんです
というか、こういうパターンお話の元祖なのでしょう

1963年の年末の出版で、翌1964年の年間ベストセラー第1位だったそうです
映画化されるわ、テレビドラマ化されるわ、レコードがでるわと一大ブームになったということです

有名な、♪マコ、甘えてばかりでごめんね~の歌は、本作でもテレビドラマ版でもなく、レコード会社単独の企画だそうです

吉永小百合が本作で歌うのは、大して記憶に残らない主題歌「愛と死のテーマ」です
しかし圧倒的にその青山和子の歌う大ヒット曲の方が、歌詞もメロディーラインも涙腺を直撃する力があり印象的です

その代わり、本作では中盤で「寒い夜」が劇中で歌われます
こちらは誰もが聴いたことがある良い曲です
歌詞も曲調も本作にマッチしていました

この曲は吉永小百合・和田弘とマヒナスターズのクレジットで1962年に発売され大ヒットした曲です
吉永小百合のデビューシングルで、その年の紅白歌合戦にも出場しています

だから、誰もが知るヒット曲を劇中の二人が普通に声を合わせて歌詞を見ながら歌うシーンとなっています

吉永小百合のヒット曲を、吉永小百合が演じる主人公が、吉永小百合のヒットであると理解して、吉永小百合当人が歌うという、ちょっと面白い趣向です

美人女優の顔を如何に美しく撮るか、それが映画の常道です
それが本作ではその主演女優の顔をまともに撮るのは数カットに過ぎません
序盤は左目に眼帯をしています
(綾波零は右目なので関連は?)
中盤になれば、顔の右側半分をガーゼで覆っています
一度はミイラのように包帯で顔が巻かれ、右目と口だけというシーンすらあります
なかなか大胆で勇気ある起用であったと思います
予告編によると吉永小百合本人の熱望によるとありました
しかし、その美人の顔が崩壊するという悲劇性が、吉永小百合が演じる事によって却って際立ち効果を上げています
終盤で父が買ってきたドレスを病室で着換えて、カーテンの陰から右半身だけ覗かせて、どう綺麗?と聞くシーンはなかなかに哀れを誘います

ミコが入院しているのは阪大附属病院です
当時はまだ中之島の近くにあったのですね
今は万博公園の北側に移転しています
屋上のシーンで見える中之島の光景からみて実際に現地ロケしているようです
建設中の阪神高速池田線が見えます

ただ病室の窓から、通天閣が見えたり、阪神百貨店やら阪急百貨店のネオンサインが見える訳が無いので、舞台が大阪であることを強調しているのだと分かっていても、土地勘のある人間は却ってここどこよと混乱していまいました

そう言えばこの病院が白い巨塔の舞台となります
映画「白い巨塔」は1966年公開、その原作小説は本作公開の1964年9月の時点では週刊誌に連載中でした
ちょっと面白い関連性です

遠距離恋愛だけでも、花火のように燃え上がるものです
メールもない時代、文通での手書きのやりとりは更に燃え上がるものかも知れません
3年間に400通の文通
つまり2~3日に1通という猛烈な頻度です

当時の事ですから、東京大阪間の長距離電話は3分でも数百円はしたろうと思います
貨幣価値が5倍は違うでしょうから、今の私達からするとあの電話1回で1万円くらい使っているというシーンです
それくらいの愛の熱量があった物語であるということです
しかも美人の顔半分が崩壊し、やがて死に至る病であるのだから、その苦悩は計り知れません

正に愛と死を見つめてという内容でした

あき240