劇場公開日 1964年9月19日

「難病に侵されても直向きに生きた女性を、若き吉永小百合が演じる日本版「ある愛の詩」」愛と死をみつめて Gustav (グスタフ)さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5難病に侵されても直向きに生きた女性を、若き吉永小百合が演じる日本版「ある愛の詩」

2020年4月24日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

軟骨肉腫に侵され21歳の若さで生涯を閉じた大島みち子と大学生河野實との間で交わされた往復書簡集の原作を題材にした青春悲恋物語。62年の「キューポラのある街」と並ぶ吉永小百合の初期の代表作。彼女の明朗で健康的な個性が、難病に苦しむヒロインの健気さを見事に浮き出させている。共演は浜田光夫で、愛に正直であろうとする一途さは表現できているが、死に直面した恋人の絶望と対峙する青年の複雑さは、脚本も含めて描き切れていない。同系列のアメリカ映画「ある愛の詩」と比較して弱い点は指摘できる。
配役が豪華。主人公小島道子の父正次に笠智衆、担当医師に内藤武敏、患者中山に宇野重吉、さらに彼女と同室の女性患者にミヤコ蝶々、笠置シズ子、北林谷栄。この女性三人の会話が面白く、ある宗教団体についてざっくばらんに話すところなど生活感が出ている。
当時の病院内の描写が時代考証の点で大変興味深い。個室に小さな台所があり、来診の医者に患者がお茶でもてなしたり。何の遠慮もなく医者がタバコを喫うのは、今では驚愕である。道子が中山の洗濯物の手助けをして、他の患者の親族の嫉妬を買い、不条理な罵倒を受けるところが意外であり、面白い表現になっている。患者同士で助け合う当時の人間関係、主人公の汚れていない綺麗なこころ、それ故傷つく繊細さなど。

病院の屋上で二人が歌う「川は流れる」が印象的。映画のイメージにピッタリの素敵な曲です。病葉と書いて、わくらばと読む。小島道子の生涯は、艶やかな真緑の葉を一瞬にして赤い葉にした人生でした。

Gustav