ある愛の風景のレビュー・感想・評価
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鼻がでかいと短気らしい・・・
スザンネ・ビア監督作品としては『アフターウェディング』(2006)を観たばかり。この作品はそれより前の2004年作品。どことなく2002年のドグマ映画である『しあわせな孤独』のタッチをそのまま受け継いでいて、編集は普通のものだが『アフターウェディング』と同じく意味深なカットを挿入しています。戦争というテーマもあるものの、根本的にはヒューマンドラマ。何度も感情を揺さぶられ、人間の罪深さと家族内の葛藤と信頼に涙を禁じえない・・・
原題ともなっている“兄弟”。冒頭では兄ミカエル(ウルリク・トムセン)が銀行強盗の罪で服役していた弟ヤニックを迎えにいく。犯した罪については、PTSDを引きずっている被害者に謝罪することを勧める程度で、兄は弟を信頼し、愛していることがうかがえる。しかし、成績優秀、スポーツも得意な兄と違い、弟はコンプレックスの塊りだった。そして父親との確執。いらない子として毛嫌いされていたほどだ。
兄は優秀な軍人。弟が出所した後、アフガニスタンの戦地へと赴く。通信兵を救助するという作戦に参加するもヘリが撃墜され、妻サラ(コニー・ニールセン)のもとに訃報が届く。飲んだくれていた弟ヤニックも目が覚め、サラや2人の娘の心の支えとなる。しかし、葬儀も済ませたミカエルは奇跡的に助かっていたのだ・・・もしや、2人の間に恋愛感情が芽生え、帰還する兄と最悪の三角関係になるのかと・・・と、ありがちなドラマにはならず。
戦地での過酷な捕虜生活。さらに、生きるためとはいえ犯してはならぬことを強制させられた体験が彼を罪悪感の塊りにしてしまったのだ。悩めるベトナム帰還兵を扱った映画は多いけど、舞台はアフガン戦争であり、しかもデンマーク兵。正義感が人一倍強いという性格もあったし、相談できる相手もいない。完全に精神異常をきたし、家族やものに当たり散らすといった内容です。
戦死の知らせが契機となったこともあるけど、精神的にも生活態度も立ち直った弟。対して重い十字架を背負うことになり、精神的にもマイナスに向かうこととなった兄。この2人の対照的な構図を軸に、家族のそれぞれの思いが交錯する。無邪気な娘や厳格な父、それに偏見のない愛を見せてくれるサラ。バラバラになりかけてもしっかり繋がっている家族愛を感じる作品でした。
細かな部分では、何をしていいかわからずに遺品となるレコードの整理をする母親や、新しくなった食器棚の中を神経質そうに配置換えするミカエルなんてのが良かった。それにソファでヨダレを垂らして寝ていたヤニックもリアル・・・
cf.『マイ・ブラザー』
心の再生
スサンネ・ビアの作品は本当に面白い。
いつも登場人物に究極の選択、体験を強いることでドラマを展開する。
いつも優等生で誰にでも寛容な性格の兄と素行が悪く自分勝手に生きてきた弟、正反対な人物を描きその対象性を物語の軸へと昇華する。
サラやミカエルの娘たちと触れあうことで変わっていくヤニックの心、捕虜という立場で生きて帰ることを約束しあった仲間を殺すことを強いられた体験によって変わっていくミカエルの心。
心と心が触れあうことで人は善くもなれるし、逆に壊れていくこともできる。 罪を犯せば直ぐに詫びを入れるような性格だったミカエルは自分が殺してしまった仲間の遺族の元を訪れるが謝ることが出来ない。 消えることの無い罪を背負った人間の心の痛みがひしひしと伝わってくる。
しかし、悲劇のままでは終わらせないところにスサンネ・ビアの性格が垣間見える。
ミカエルが"再生"へ向かう道しるべもサラの"心"によって示される。
ドキュメンタリータッチで描かれた映像は私達が傍観者であることを強く示し過度の感情移入を赦さない。
にもかかわらず、彼女の描く"心の傷"は私達の心の奥底までしっかりと届く。
リメイク版『マイ・ブラザー』公開記念!
ハリウッドでリメイクされた『マイ・ブラザー』の公開記念してレビューアップします。
タイトルから想像できないとてもシリアスな映画で、主人公の選択については命がかかったら止む得ぬとはいえ考えさせられるものでした。
アフガンの国連維持活動(ISAF)といっても、デンマークの軍隊から派遣された主人公の活動は戦場そのもの。民主党の小沢さんはこんな場所に自衛隊を投入しようとしていたのかと驚きました。
そして戦場で捕虜になると、いろいろ悲惨な体験を積むことになります。ミカエルも人に言えない仕打ちを経験し、心に深い傷を持ってしまいます。
運良く救出するものの、誰にも言えない秘密を持ったしまったミカエルは、その秘密に次第に心を狂わされていきます。
まして戦死したことになっている間に、不仲だった弟と愛する妻が嘘のようにうち解け合っている姿を見て、よからぬ妄想がミカエルを嫉妬に駆り立てます。
ミカエルも人生を取り戻そうと必死なのですが、どうにも、なかなかその秘密の一言が言えないものです。そんなに苦しいのなら、いっちゃいなよ~と叫びたくなる作品でした。
このように書き込むと、なかなかいい話ではないかと思うでしょうけれど、シーンごとの描写が丁寧すぎて、やや疲れました。女性監督なりのこだわりと細やかさなんでしょうけれど、もう少しテンポを上げて、ミカエルの苦悩にフォーカスすべきでした。
そのためラストが中途半端な感じで終わっているのが残念です。もっと弟ヤニックへの疑いを盛り上げていけば良かったのではないでしょうか。
ところでこの作品は、遠くの戦争が家族の平和を壊すところを描いています。夫を戦地に取られた妻は、何の術もないままに悲報を受け取るしかない不条理に襲われるということでは、「しあわせな孤独」の交通事故や「アフター・ウェデング」の不治の病同様、誰の身にもそしていつ起こっても不思議ではない出来事として、戦争が描かれています。
泥沼化するアフガンでは拉致事件が頻発し、日本でもいまそのアフガン支援のついて協議しています。平和ぼけといわれて久しい日本人ですが、小沢さんの主張に政府が妥協し、アフガン国内に自衛隊を派遣するような事態となったとき、この作品は遠い外国の出来事ではなく、より身近かな同朋が同じ思いをすることになる可能性を秘めていると思います。
全身に電流が流れたような衝撃!!
きっつい作品やなぁ
よかった、みたい作品に登録してて
映画館で観てたら全身の震えが止まらんかっただろうな・・・
◇ ◇
鑑賞後に
心身に起こった現象は
昨年12月に映画館で観た
『ずっとあなたを愛してる』(08)に似ていました。
こちらも、しばらくカラダの震えがやみませんでしたから。
ストーリー、上記作品に
『さよなら。いつかわかること』(07)の
男女を逆にしたヴァージョンを加えた感じです。
更に加えるなら、子役のかわいさは
『ラブリー・ボーン』(09)に匹敵します(苦笑)
・戦争
・夫婦愛
・兄弟愛
・家族愛
・贖罪
テーマは、この5つ
観る人によって感情移入する登場人物が異なる
どの人物に感情移入をしても息ができなくなるほどの苦しさには変わらない
この3行を記しておきます。
それ以外は鑑賞する人、それぞれに委ねたいと思います。
それだけ、いろいろと、考えさせられる作品になっています。
☆彡 ☆彡
ラストに救いはあります。
「これでおわるんだぁ」と
エンドロールが流れ始めた瞬間、声を出してしまいました。
いやぁ、いいんじゃないでしょうか。たっぷりと余韻を味あわせてくれて(笑顔)
フィクションですが
現実の世界のどこかで
本当に起きているかもしれない
そんな戦慄に襲われたのは私だけでしょうか
心の闇を啓く愛。
これも名画座にて。
デンマーク・アカデミー賞で最優秀主演女優賞を獲得し、
ハリウッドでのリメイク企画も進行している作品だそうだ。
題名を見るだけでは、ちょっと分かり辛いその内容は、
悲しみと孤独に家族の絆が入り混じり、痛みと切なさの反復、
これでもかこれでもかと「夫婦」の在り方を見せつけてくる。
確かに女性監督(S・ビア)らしい繊細なタッチではあるが、
戦渦のアフガニスタンの描き方は想像以上に恐ろしかった。。
これは、誰にでも起こり得る話だと思う。
国連軍として戦地に赴いた最愛の夫が戦死したという訃報が
突然届き、家族はその悲しみに打ちひしがれている。。
両親には自慢の息子、妻や子供には素晴らしい夫で父だった。
まさか。。どうして。。
しかしその悲しみは、やがて時間が癒してくれるようになる。
夫には弟がいた。出来損ないだった弟が兄の戦死以降、
その罪を詫びるかのように、遺された家族に尽くし始める。。
初めは怖がっていた子供達も彼になつき、妻もだんだんと
彼に惹かれ始めていく。そんな矢先、夫の生存が分かり、、。
物語のクライマックスは、ここから。
当然家族は大喜びし、すぐに夫を迎え入れる。むろん弟も。
そして普段通りの生活が(形式的に)始まっていくのだが…。
夫はもう、以前の夫ではなかった。戦地で何があったのか。
観客にはすでにそれが分かっているが、家族は何も知らない。
愛する家族のもとへ生きて還るために、彼は何をしたのか。
正義感溢れる誠実な人間だからこそ、抱えてしまう心の闇。
父親に怯え始めた子供達のため、妻がとった行動とは。。。
実は、不倫映画か…?なんて最初はたかをくくっていた。
夫のいない間に弟と?っていう、そういう「愛」なのかと。
ぜんぜん違っていた。恥ずかしいほど不正解だった(汗)
これぞ夫婦だ。さすが…!
ラストはそう思わずにいられなかった。
どんなに愛している相手でも、見えないものは見えない。
分からないものは分からないのだ。当たり前のことだx
なにか重大なことが起きて初めて、対峙するときがくる。
そしてそれを打開できる力こそが、夫婦の「対話」なのだ。
(弟もいい青年だった。原題が示すように兄弟の絆も◎)
しあわせになることとは
「しあわせな孤独」のスサンネ・ビア監督。
彼女はしあわせについて深く探っている気がする。
この映画は主人公のミカエルが戦地で捕虜になり、ともに捕虜になり、互いに家族に会うまでは頑張ろうと励ましあっていた男を、自分が生き残るために殺してしまう。
ミカエルは家族の元に戻ってから、殺した男とその家族を不幸にして取り戻した幸せの罪悪感にさいなまれる。
人の不幸の上にある幸せは幸せと言えるのだろうか?
宮沢賢治の「しあわせとは?」という問いを思い出す。
戦争は全ての人を不幸にする!
戦争は全ての人を不幸にする!という印象を強く受ける重い悲しい映画だと思います。
でも、だからこそ今の若い人たちに観て知って欲しい、戦場での究極を…戦場以外での悲しい出来事を…。
今も世界のどこかで戦争は行われています。
深く重く迫り来る
優秀な兵士である兄・ミカエルと、その妻・サラ、そして刑務所帰りの弟・ヤニックの人間模様です。
ミカエルはアフガニスタンに拘禁され、生きて再びサラと会うために、人間として最も酷烈な罪を犯してしまいます。
凄まじい葛藤のシーンに、息が詰まります。
殺伐とした砂漠の中での幽閉生活と、罪業への呵責によって、ミカエルの精神は蝕まれてしまいました。
心はすさみ、サラとヤニックがベッドを共にしたのではないかと疑心暗鬼に駆られます。
数奇な出来事をくぐり抜けてきたために、不幸にも背負ってしまった苦悩に胸が痛みました。
何故人間は苦しみ、傷つけ合わなければならないのか?
この映画は、同じくスサンネ・ビア監督の作品「アフター・ウェディング」とは違って、問題の解決を示していません。
しかし、希望を暗示するラストシーン。
苦悩を分かち合うことによって、初めて問題は解きほぐれていくでしょう。
リアルに、繊細に、丹念なエピソードを重ねていき、物言うクローズアップを多用しています。
大向こうを唸らせるような演出は思い切りカットして、人間ドラマを容赦なく描き出すスサンネ監督の手腕。
重く、深く、胸に迫り来る映画です。
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