ある愛の風景 : 映画評論・批評
2007年11月20日更新
2007年12月1日よりシネカノン有楽町2丁目ほかにてロードショー
不安定な世界と向き合うことで、それぞれに自分の道を見出す
スサンネ・ビアは、「しあわせな孤独」(02)を作ってから、自分の関心と9・11以後の時代が深く結びついていることを強く意識するようになった。彼女は、予期せぬ出来事によって揺らぐ日常を通して、人間を掘り下げようとする。9・11以後の世界には、どこで何が起こるかわからない不安が広がっている。それが交差するのが、「しあわせな孤独」に続くこの作品だ。
デンマーク軍の一員としてアフガニスタンに派遣されたミカエルは、作戦中にヘリもろとも撃墜される。彼の妻子や親兄弟は、戦死の知らせによって喪失感に苛まれる。だが、予期せぬ出来事はそれだけではない。ミカエルは捕虜になり、想像を絶する苦境に立たされている。やがて彼は帰還を果たすものの、その苦悩と狂気は、家族の絆を確実に蝕んでいく。
主人公たちは、極めて深刻な状況に追いやられる。しかし、スサンネ・ビアが描き出すのは、必ずしも悲劇ではない。もし彼らが現在の不安定な世界と繋がることがなければ、身の回りの安全だけを確保しようとする社会のなかで、敷かれたレールの上を歩み、画一化された幸福を求めていたかもしれない。彼らは世界と向き合うことで、それぞれに自分の道を見出し、より深い愛に目覚めていくのだ。
(大場正明)