「監督デ・ニーロは重厚 役者デ・ニーロは手抜き」グッド・シェパード The Dudeさんの映画レビュー(感想・評価)
監督デ・ニーロは重厚 役者デ・ニーロは手抜き
監督2作目にしてこの味わい。監督デ・ニーロ、静かに驚かせてくれる。デビュー作の『ブロンクス物語』はスコーセッシ風場面作りに己のハート(女の好みも含め)を注ぎ込むという、少々青くアンバランスな感じがしたのだが(それでも良い作品だが)、13年ぶりにメガホンを取った本作では、そんな青さのカケラも感じさせない。彼のカラーが無いと言えば無いが、こんな重厚でありながら重すぎない妙のある演出を2作目で魅せてくれるなんて、監督としても結構イケる。
そんなデ・ニーロ演出も話が面白くなければ活きない。本作の最大の活力はエリック・ロスの脚本だ。重厚な実録ものと思いきや、実はスパイ・エンターテインメント。前半に短編的なエピソードを積み重ね、後半でこれらの集大成として主人公に危機が降りかかる。主人公は高官であり、命の危機には曝されることはないが、彼が一番大事にしている者を巡り窮地に立つ。更にこれを乗り切るための行いが招く悲劇。非情な世界の業をまざと見せるロス、『ミュンヘン』に続き素晴らしい仕事ぶりだ。
もう一人作品を支えているのは、撮影のロバート・リチャードソン。当代屈指のDPの仕事っぷりにはひたすら見とれ酔うのみ。暗と光、オレンジ色が絶品だ。
マット・デイモンは寡黙な人物を演じた時は素晴らしい。己を決して崩さない非情なエリートを演じて、これほど嫌みなくはまる役者もそうは居まい。
アンジー・ジョリーはゴージャスで巧いと思うが、ちょっと浮いた感がある。豪華脇役は顔見せ程度だが、マイケル・ギャンボンは印象に残る。出番の少ないデ・ニーロ本人、資金調達の為の出演だろうか、あまりにもやる気のない芝居だ…。コッポラの非難も頷ける。もっとも最近のコッポラもコッポラだが。