「意外と歌が上手い銀行頭取!」ONCE ダブリンの街角で kossyさんの映画レビュー(感想・評価)
意外と歌が上手い銀行頭取!
ドレミレ♪ドレファミ♪と始まる「フォーリング・ストーリー」はアカデミー賞歌曲賞にもノミネートされている。サントラ盤が全米チャート2位にまでなっているほど、音楽に満ちている映画なのです。ミュージカルではないものの、それぞれの歌には出会った男女の想いが込められているので、歌詞がストーリーに溶け込んでるかのようでした。いきなり“君を知らないけど君がほしい”なんて・・・と思ったけど、昔の恋人のことを歌ったものだったんですね・・・
役名のない男女。ストリート・ミュージシャンとしてギターで歌うguy(グレン・ハンサード)とチェコ出身の花売り娘girl(マルケタ・イルグロヴァ)が出会い、音楽を通して心を通わせていくという小さな物語。恋愛としての感情の起伏なんてものより、音楽の素晴らしさに目覚めていくことが中心なのであり、ありふれた恋愛ものとは一味違うのです。ラストもいろいろと想像させてくれるし。
演奏されるのは70年代風のフォークロックといったところでしょうか。彼らの曲がスタジオディレクターを唸らせるほど斬新なものではないにしろ、心がこもった優しい恋愛の歌にうっとりしてしまう。もともとはグレンのギター弾き語り用の曲。楽器店でマルケタとセッションして生まれるハーモニーは彼にとっても新鮮だったし、音楽の可能性、コンビを組めば素晴らしいものができると感じた一瞬でした。なぜだか、こんな序盤で涙が・・・
さあ、プロデビューを目指してデモテープ作りするぞ!てな展開は唐突感もあるのですが、彼女とのセッションがあってこその展開なんですよね。それに簡単にバンドメンバーを見つけるシーンなんかは偶然すぎるけど、音楽映画はほとんどがこのパターン。理屈なんて要らない。純粋に音楽を楽しむためには超絶技巧派ミュージシャンなんて必要ないものです。
全体的なストーリーのバランスはしっくりこないけど、随所にバンド経験者なら理解できる懐かしさが織り込まれてたり、どことなく笑えるシーンもあったりしました。マルケタのアパートの住人なんてずかずかと入り込んでテレビを見始めたり、覚えたての英語が「妊娠していますか?」だったりして、笑わせてくれます。
グレン・ハンサードが俳優ではなくミュージシャンであるだけに、この映画のような経過でプロになったんだろうと想像できる。初めてのスタジオでも怖気づくことなく楽しんで録音してたのが良かったのでしょう。今はデジタル全盛の時代。パソコンでもプロ仕様のソフトがあるんですから、自宅ではカセット録音してる光景を見ると、貧しさということも伝わってきます。
〈2008年2月映画館にて〉