この道は母へとつづく : 映画評論・批評
2007年10月22日更新
2007年10月27日よりBunkamuraル・シネマほかにてロードショー
少年のピュアな衝動に心を打たれる
一見いかにもありそうなタイトルから容易に想像できるように、ストーリー自体に目新しさはない。だが本作の本質は、「母をたずねて三千里」のような古典的なストーリーに現代ロシアの社会問題を織り込んだところにある。99年のロシアで起こった金融破綻によって、街に大量にあふれ出たホームレスの子供たちを見て、本作のアイデアを思いついたという監督アンドレイ・クラフチュークは、子供も働かなくては食べていけない現代ロシアの経済事情や孤児院が抱える問題をリアルに描きつつ、養子としてイタリアで生きていく理性的な選択と、“本当の母親に会いたい”というピュアな衝動との間に揺れる少年ワーニャの葛藤を見事に描き出している。
前半の悶々とした暗く重苦しいタッチから一転、意を決して母親を捜しに孤児院を抜け出したワーニャの“冒険”は、街の不良に襲われたり、追跡する養子斡旋業者から間一髪逃れるなどスリルとサスペンスに満ちていながらもどこか明るい。幾多の障害、そして人の優しさに触れながら、ただひたすら“母親に会いたい”という一心で前進するワーニャの姿には心を洗われる思いがした。
(編集部)