自虐の詩 : インタビュー
堤幸彦監督インタビュー
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――今回の映画は、監督自身が最も満足度が高い作品と話していますが、監督の中でひと区切りといった気持ちもあるのでしょうか?
「元々コントをやっていたし、ミュージックビデオのディレクターをやっていて、今でもそれが本業だと思っていて、TVドラマや映画を撮れるだけでも幸せなんですが、ずーっと、ドリフとかとんねるずがやってた貧乏コントが本当に大好きなんです。短編の『Jam Films』をやったときも、岩井俊二さんとか行定君とかはおしゃれなカッコいいのを作るんだろうなと思いつつも、僕が作るんだったら、やっぱり貧乏コントしかないなあと思ったりしていたので、今回の映画は自分でも得意な世界観だったんです。こんなことは製作委員会を前に言えませんが、おクラ入りになってもいいやって思うほどに好きなことをやらせていただきました。特に劇中に出てくる大阪の警察署の張り紙なんかは相当遊んで書いていますね。フリーズして見ると楽しいですよ。“あきらめんな大阪”とか書いてあります(笑)」
――本作以外でも、今年は「大帝の剣」「包帯クラブ」「まぼろしの邪馬台国」「20世紀少年」「スシ王子! 銀幕版」など併行して映画に携わっていて、まさに多忙を極めている状態ですが、頭が混乱しませんか?
「元々バラエティ出身なんで、バラエティをやっているときは演歌も占いもかっこいいポップスもなんでもしました。だから、“僕はコレしか出来ません”なんて口が裂けても言えませんし、言ったとたんに食えなくなってしまうんで、忙しさは気にならないですよ。それよりは与えられた課題にどう誠実に応えていくかが重要で、量の多さは問題ではありません。忙しさでいったら、80年代の方が忙しかったですからね。TVのレギュラー番組をしながら、毎週海外に行ってビデオを撮ったりとかしてましたから。今の方が寝られるだけマシですよ。たしかにそれぞれの映画やドラマの仕事が重なるんですけれども、それを乗り切る分業システムを作ったので、なんとかなっています。まあ、この10年間はそのシステムを確立するための期間だったといっても過言ではないですね」
――それぞれのプロジェクトに取りかかる際に「これだったら面白くなる、イケる」というある程度の基準があると思うのですが、それは何でしょうか?
「最近だと、場所的なことだったりするんですが、これは『池袋ウエストゲートパーク』を作ったあたりからなんです。昔のTVドラマ『寺内貫太郎一家』で、樹木希林が“ジュリー!”って叫びますよね。あの虚構の中にジュリー(沢田研二)という本物がいるっていうのが凄い好きでね。“ああ、本物があってもいいんだ!”って気づいたんです。それから『ケイゾク』なんかでもそうなんですが、場所は本物で中身は嘘っていうのをやってますよね。例えば、今回も崇高なテーマの原作を頂いて、主演は中谷美紀と決まった段階で“ああ、オレは『嫌われ松子』は超えられない”って半ば諦めかけましたけど、そのときに舞台を大阪・新世界にしたらイケるかもって思ったんです。実は『包帯クラブ』も高崎っていう街がなければ出来ていなかったかも知れないんです。とっかかりがあれば、割と作れてしまうのかも知れませんね」