「そして父になる。 ジャンル映画にうるさい事は言いたくないが、まぁこの設定は観ていて気持ちの良いもんじゃないよね…☢️」ヒルズ・ハブ・アイズ たなかなかなかさんの映画レビュー(感想・評価)
そして父になる。 ジャンル映画にうるさい事は言いたくないが、まぁこの設定は観ていて気持ちの良いもんじゃないよね…☢️
核実験により生まれた人喰いミュータントの恐怖を描いたスラッシャー・ホラー『ヒルズ・ハブ・アイズ』シリーズの第1作。
家族旅行中のカーター一家は、目的地であるサンディエゴへ向かう為ニューメキシコ州の砂漠をトレーラーで横断していた。
彼らは給油の際に立ち寄ったガソリンスタンドの店主から近道を教えてもらう。その言葉を信じ、地図に載らない細道を進む一行を待ち受けていたのは、得体の知れない“怪物“たちだった…。
『エルム街の悪夢』(1984)や『スクリーム』(1996)の生みの親として知られるホラー界の巨匠、ウェス・クレイヴンの初期作品『サランドラ』(1977)をリメイク。オリジネイターであるクレイヴンが製作に携わっている、由緒正しい正統後継作である。
メガホンを握るのはフランス人監督のアレクサンドル・アジャ。後にワニワニパニック映画『クロール -凶暴領域-』(2019)を大ヒットさせるホラー界期待の星であり、本作は彼のハリウッドデビュー作でもある。
オリジナル版は未見。
核の影響により生み出されたミュータント、それに立ち向かう男と犬1匹という設定は猛烈に『マッドマックス2』(1981)を想起させたが時代的にはオリジナル版の方が先に公開されている訳で、別に『マッドマックス』パスティーシュではないのかも。ちょっとこの辺は本家を観てみない事には判断がつかないっすね。
ニューメキシコ州は、オッペンハイマー主導による原子爆弾開発計画、通称「マンハッタン計画」が行われたロスアラモスが所在する地である。
そんな原爆誕生の地で引き起こされる、凄惨な殺戮。加害者であり、また同時に放射能汚染による被害者でもあるミュータントたちの怒りと悲哀を表現する事により、核開発へのアンチテーゼを示してみせた。
日本ではR18に指定されているだけあり残酷なシーンは多いが、何より強烈なのはOP。ウェッブ・ピアスによる陽気なカントリー「More and More」(1954)と共に核実験の映像が画面に映し出される。それだけでも「うっ…」となるが、さらにこちらの鼻柱を折ってくるのはその合間合間にサブリミナル的に挟み込まれる奇形児の写真である。放射能の影響で歪んでしまったと思われる子供達の姿(実はここで使用されているのはベトナム戦争の枯葉剤によりダメージを受けた胎児たちの写真であり、放射能は関係なかったりする訳だが…)は今後の展開の伏線になっているのだが、まぁやはりこの映像のインパクトは凄まじい。なんかもう片手間に食べていたピザの味がしなくなる程にショックを受けてしまった。
本来、自分はジャンル映画の倫理観とか道徳性についてとやかく言うタイプではないし、ホラー映画なんて不謹慎を楽しむジャンルなのだから五月蝿い事は言いっこ無し、というスタンスで映画に向き合っている。
しかし、この映画に関してはちょっと口を挟みたくなるというか、「結局お前ら何も反省してないだろ」的な怒りにも似た不快感を覚えてしまった。
放射能の恐怖を描いている反核的な作品だという程をとっているものの、結局は原爆の被害者を“モンスター“として扱っている訳で、「人喰いミュータント」という差別的な造形を楽しむ事は正直出来ない。
そもそもあの衝撃的なOPからして、放射能汚染の被害者としてベトナム戦争の写真を使うというのがかなり歪で、これ結局はどちらの被害者にも敬意が払われていない。被曝の恐ろしさを本当に伝えたかったら、ヒロシマやナガサキの映像を使ってみせろっ!💢
ヒロシマ、ナガサキ、第五福竜丸と、アメリカから3度も原爆を落とされた国の人間として、まぁこの内容や設定は不愉快にならざるを得ない。結局のところ、西洋人の原子爆弾に対する考え方はこの程度なんだよね、とガッカリさせられてしまった。これを観たベトナムの枯葉剤被害者や被曝者がなんと思うか。そういう事を映画を作る人間にはちゃんと考えていて欲しい。
さて、ここからはイデオロギーを抜きにして考えてみたい。
褒められるのはクライマックスの大立ち回り。これまでひ弱でヘナチョコだった娘婿のダグが単身(+犬)で敵地に殴り込みをかける。このシークエンスの緊張感は見事だし、アクションシーンの描き方も上手い。また、戦場が住人を模したマネキンが街中に放置されている廃墟というのも、まるで西部劇の対決シーンのような情緒がありとても良かった。ここを夜とか曇りとかではなく、かんかん照りの明るい陽光の下で展開するというのがまた西部劇風味というか、とにかく「やったれダグッ!」という気持ちに観客を盛り上げてくれるのです。…まぁ他の登場人物に比べてあまりにも主人公だけヒットポイントが多すぎる気がしないでもないが、それはホラー映画のヒーローのお約束みたいなものなので目をつぶる事にしましょ。
クライマックスは確かに盛り上がるのだが、そこに至るまでの展開は鈍重。ミュータントたちが本格的に動き出すまでに50分以上かかるため、正直観ていてかったるかった。
丁寧に緊張感を積み上げている、と言えなくもないが、どうせ家族が怪物に襲われる事はわかっているのだから、もう少し早い段階でギアを上げるべきだったと思う。
最後までよくわからなかったのは、ミュータントたちがいつ放射能に汚染されたのかという事。
1977年に公開されたオリジナル版ならともかく、この映画が公開されたのは2006年。普通に現代劇なのだから、作中の時代も2000年代のはず。って事はあの人たちは直に放射能を食らったのではなくて、親からの遺伝?じゃあいつからあそこであんな暮らしをしてたんだっ!?流石にそろそろ誰か気付けよっ💦
R18とは言え(そこまで)グロくはないし、エロ要素も薄い。そういう意味では意外と観やすい映画なので、スラッシャーが苦手な人でも大丈夫…かな?
大々的な日本公開は行われなかったようだが、それも宜なるかな。日本人として複雑な気持ちになるのは当たり前の内容…というかならなかったらヤバいと思うんだけど、一度観てみて自分はどういう感想を抱くのかをチェックしてみるというのは大切な事なのかも知れませんね。