ブレイブ ワン : インタビュー
長年の念願が叶い、「ブレイブ ワン」で、ようやくニール・ジョーダン監督とのコラボレーションを実現させたジョディ・フォスター。ジョディのホームグランドともいえるニューヨークを舞台に、一人の女性の復讐と葛藤を描いた本作について、映画評論家の森山京子氏がインタビューを行った。(聞き手:森山京子)
ジョディ・フォスター インタビュー
「ラストシーンが、演じる上で一番チャレンジングだった」
※ラストシーンについて言及していますので、映画鑑賞前の方はご注意ください
ジョディ・フォスターの声には不思議な音色がある。決して美声ではない。しゃがれ声の範疇に入るのだが、一言一言が明瞭で非常に力がある。そのジョディの声が、「ブレイブ ワン」では重要な役割を果たした。ジョディが演じたエリカはニューヨークのラジオ・パーソナリティー。街を描写する彼女の声から映画が始まる。
「この映画の最初では、エリカは声だけの存在なのよ。その状態に満足しているわ。恋人が彼女の肉体と言ってもいいくらい。その彼を失うことで、彼女は社会的に本当に見えない存在、ゴーストになってしまうの」と、ジョディは言う。
暴漢に恋人を殺され、自分も瀕死の重傷を負うエリカ。体の傷は回復しても暴力への恐怖が消えず、ゴーストのように閉じ籠もって、外を出歩けない。そんな彼女が恐怖を克服するために護身用の拳銃を手に入れ、やがてその銃口は社会の悪に向けられていく。「銃を手に入れた時、ゴーストだったエリカが肉体を取り戻したと言えるんじゃないかしら。彼女が銃を突きつけるのは「私は生きたい」と叫ぶことなのよ。人間が生きたいと主張するのは美しいことだけど、他人の命を奪う形でそれをやってしまう。そういう恐ろしいモンスターが自分の中にも棲んでいたということにエリカは直面するの。美しい面とモンスターの部分。人間性の両面を描くというのが私たちのやりたかったこと。それは、これまでもニール・ジョーダンがやってきたことよね。この作品にもはっきりニール印がついていると言えるわ」
復讐もののジャンル・ムービーでありながら、人間性について観客に考えさせるところもある。それが素晴らしいのだとジョディ。「犯人たちに復讐したいというエリカに、観客は感情移入できると思う。そういうエンターテインメントとテーマがうまく組み合わされているのがこの映画の魅力よ。単純に善だ悪だと分けられないものとして暴力を描いているのは70年代の映画に通じるものがあると思わない?」
実はこの映画、チャールズ・ブロンソンの「狼よさらば」(74)に設定と展開がそっくり。だがジョディは、比べるならむしろ「タクシードライバー」(76)の方だと言う。
「『タクシードライバー』のラストを見て、誰もが、トラビスはまた同じことをやるに違いないと思ったはずよ。社会的には正しくないけれど、彼が繰り返すというのは真実、リアルなの。その同じリアルが『ブレイブ ワン』にもあるわ。トラビスが無意識に行動していたのに比べて、エリカは恐れと恥を感じている。2人の感情や葛藤は違うけれど、ベトナム戦争後と9・11後、どちらのニューヨークにも共通しているのは、自分が安全だと感じられない漠とした不安感よ。それもきちんと描けていると思うわ」
ラストが論議の的になっているが、「撮影が始まってからずっと、ラストをどうするか議論し続けたけど、最後の最後まで決まらなかった。だからあのシーンが、演じる上で一番チャレンジングだったわ。エリカは決して自分のしたことから逃れたんじゃない。恐怖と恥を持ったまま生きることを選択したのよ」