「世界はこんなに美しい。 心の翼が羽ばたくとき。」ミルコのひかり とみいじょんさんの映画レビュー(感想・評価)
世界はこんなに美しい。 心の翼が羽ばたくとき。
光を失った少年の、光を失った場所での物語。
なんて書くと悲壮感あふれるはずなのだけれど、この映画で感じ取れるのは躍動感。
”障碍者”なんて枠で括らないで、人の可能性を観てほしい映画です。
心の中に湧き上がる躍動感・想像力で自分の枠を超えていく子どもたち。
その子どもたちに触発されて湧き上がった信念で自分の枠を破る教師。
そうして、観る私も今まで見(聴)落としていた世界に心が解き放たれていく。
行動を制限された少年たち、そして寮母の娘。映画を覆う色彩も暗め(地下室や石造りの建物の場面が多いから)。なのに、色彩があふれている。かえって豊かに感じる。
「青ってどんな色?」「自転車で走る時に頬をなでる風の色だよ」そう、そうなんだ。
シャワーの音を雨音に見立てて作る四季を表す音響詩。心が躍る。
日々の生活の中にこんなに美しいものが隠れて、もとい、埋もれていたんだ。
そして、少年たちの中から溢れ出る躍動感。
目が見えなくったって、鬼ごっこはしたいし、木登りもしたいし、チャンバラ?もしたいし。心の中に英雄だって、お姫さまだっているし、ドラゴンだって飼っている。当たり前のことなんだ。
実話をベースに映画化した物語なのだけど、この映画を手あかに染まった教訓物語にしていないのは、子役たち。
オーディションで選ばれた視力が機能している子と視力が機能していない子が混ざって演技している。「~どんな色?」というシーンはミルコ役のルカ君(視力が機能している)とフェリーチェ役のシモ―ネ君(視力が機能していない)のアドリブなんだそうだ。他にもあの場面、この場面、子どもたちが本当に楽しそうに笑い、冒険する。生きている。
そんな彼らの姿を、アドリブを切り捨てずに、自由に動かさせた監督の力。
校長先生が悪役になっているけど、障碍者にああいう生き方を押しつけているのは世間。
「怪我したら危ない」からやっちゃだめ。今までの道を歩めば安全・安心。新しい道を開拓するのは危険だし、苦労が伴うよとの老婆心。
障碍者にだけでなく、ほとんどの子どもたちはこんな風にがんじがらめ。
でも、ミルコ達を助けてくれた工場の人々のように、共に暮らし、楽しんでいる人たちだっている。
安易な統合教育はかえってその子の力を潰すこともある。統合教育は言うは易く行うは難し、何が正解かわからないけれど、どの子にとっても、その子自身の持ち味を活かせるようにできたらいいなと切に願う。
心の翼を拡げたくなった時、世界の美しさを思い出したくなる時に観たくなる映画です。観てください。