「なにもかもが想像以上の一夜。」スーパーバッド すっかんさんの映画レビュー(感想・評価)
なにもかもが想像以上の一夜。
〇作品全体
登場人物にとっても、そして見ている自分にとっても想像以上の内容だった。
ギャグっぽい邦題から「笑えればいいかな」という気持ちで見ていたけれど、終盤の想像通りにいかなくて身近な友情を再確認するという展開が実直ですごく良かった。
セスの突拍子のない下ネタギャグは通常営業なのかもしれないが、ジュールズを小ばかにしたり、高校卒業までに一皮むけることに執着している姿は空回りしているようにも感じた。ただ、それが親友のエヴァンと別々の大学に行くことになったことからくる寂しさだった、という理由付けも上手で、セスがぶっ飛んだギャグキャラという存在だけじゃないというのもとても良い。
酔っぱらって帰ってきたエヴァンの家で愛を語り合う二人は、酔いが回りすぎて本心があふれ出しすぎている感じ。そんなところも酔っ払いのよくある風景を巧くクライマックスのシーンに昇華してるな、とも思うし、青春の風景としても感じ取れる。「高校卒業を間近にした男子高校生」の持ち味を上手く活かしているな、と感じた。
そしてなによりラストシーン。エスカレーターでエヴァンと別れるセスの主観カットが素晴らしすぎた。別々の大学へ進んでいく二人は社会の流れの中で離れていく。それをエスカレーターというゆっくりと、そして強制的に離れていく装置を使って演出していた。
セスとエヴァン、それぞれがそれぞれに向けた目線の切なさ。ここまで下世話な話もなにもかも言葉にしてしゃべり倒してきたセスが、ここでは静かにエヴァンへ目線を向けるだけ、というのがすごく心に響いた。名残惜しくも二人が進む先は別々にあると悟ったような心境が、エスカレーターの向こうへ見えなくなっていくエヴァンの姿から感じられてグッときた。
物語は一夜の出来事で、登場人物にとっては斜め上の出来事だっただろうが、想像通りのことでは経験できないこと味わったのだろう。それはこの作品を見ている自分にとってもそうで、「童貞ウォーズ」なんてタイトルからは想像もできない感情を味わった。本当に素敵な青春映画だった。
〇カメラワークとか
・エスカレーターの演出、いいよなあ。生活の身近にありながら、別れの装置としてドラマチックすぎる。誰かを見送るときに、ゆっくりといなくなっていく切なさが自分の経験と重なるからだろうか。
〇その他
・「綺麗ごとじゃない、洗浄されてない青春映画」が好きなので、男子高校生特有の下ネタに逃げずにスポットライトを充てているところからして好感がもてた。不慣れなパーティのアウェイ感の描写から酔った勢いでパーティの経験を発揮する終盤の流れも面白くて、一夜の物語ながら成長を感じられるところも好きだ。
・H&Mでマクラビンの免許証がプリントされたパーカーを売っていたと知って、もっと早く見ておけばよかった…と、ものすごく後悔。欲しかった…。