ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序 : インタビュー
大月プロデューサーに続き、「エヴァ」を知る上で欠かせないもう1人――碇シンジとして“作品世界を生きた”、緒方恵美に話を聞いた。(聞き手:村上健一)
緒方恵美(碇シンジ役) インタビュー
「自分の中では、まだ終わっていないと思うんです」
10年ぶりに庵野が描く碇シンジに再会し「ああ……本物の“エヴァ”だなあと思った」という緒方。インタビュー時にはアフレコ台本とその現場(音声収録が先行して行われたプレスコ方式)でしか新作に触れていないながらも、適切な言葉を丁寧に選びつつ、「ヱヴァンゲリヲン新劇場版」の印象について語ってくれた。
「30代中盤だった庵野さんのライブな感覚がそのまま映し出されている前作と違って、今回は、当時感じたことに対してある種の回答をご自身で見つけたんだな……という感触がありました。庵野総監督がもう一度エヴァを創ろうと思ったときに、“わかりやすいエンターテインメントを創る”とおっしゃったそうなんです。元の作品も、非常に王道的なものがベースにあったとは思うのですが、庵野さんの個性で、すごくエッジの効いたものになっていった。その部分は残しつつ、今回は、より王道に持っていこうとしています。自分もものを創る人間なのでわかるんですが、いったんエッジの効いた方向へ進んだ作品を、スタンダードな方向、より王道的に進化させるというのは、とても勇気の要ることだと思います。それを実際に作品として実現させているというのは……ものを創る人として、本当にすごいと感じました」
台本が手元に届いて初めて、「エヴァをやるんだ」と実感を持てたという彼女だが、キャラクターには「違和感なくすんなりと入っていけた」という。
「自分の中では、終わっていないと思うから……」
それが果たして適切な言葉なのか……自分で確認するような表情をして、緒方は続けた。
「(声優として)『エヴァンゲリオン』という作品をやり終えたのは確かなんですが……作品の中で、演じていた私はシンジとして生きていたんですね。ある種、私自身が生きてきた14歳としての記憶を2つ持っていて、その片方みたいな感じなんですよ。でも、それが始まる前も知らないし、その後どうなるのかもわからない。一生涯を付き合ったわけじゃないから、“終わっていない”と感じるのかもしれないです。仮に今回の劇場版で決着が付いたとしても、あるひとりの人間の“14歳”という切り取られた一時期の記憶・体験ですから、やっぱり私の中では“終わらない”のかもしれません」
全身全霊をかけて、役にのめり込むのが緒方恵美だ。先のエヴァでは、シンジの痛みを自分の痛みとして、辛く苦しい想いを経験してきた。そして、新たな劇場版……。
「エヴァは、シンジという普通の男の子がちょっとがんばっては悩みを乗り越えて、でもまた挫折して……みたいな話じゃないですか。ですから、(ヱヴァンゲリヲン新劇場版でも)そうそう楽な展開が残っているとは思えないので(笑)、どっちに転んでも、私はシンジと一緒にリアルな痛みを感じていくんだと思います。ただ、私は逆境を楽んでしまう人間なので(笑)。庵野さんという神様がどういう運命をシンジに与えて、それを私自身が気持ちのうえでどうやって乗り越えていくか……楽しみです」
我々が目撃する碇シンジの物語は、同時に緒方恵美の成長物語でもあるのだ。