劇場公開日 2007年8月4日

「最後の遊園地」水になった村 Imperatorさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0最後の遊園地

2019年12月24日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

“ほのぼのした、ジジババの物語”といった印象で、映画を見終えた。
悲壮感はなく、「ここはダム建設が、円満に進んだのだな」と思った・・・。

ところが、その後、ネットで「徳山ダム」を調べてびっくりした。
すんなりと移転が決まったとは、およそ言えないダムだからだ。
しかし、本作品では、ダム闘争は一切描かれない。ニュースの音声を通じて、示唆されるのみだ。
約10人の老人が出てくるが、彼らの中には、その当時、当局と激しくやり合った人もいるはずだ。
家がとり壊される時の、お婆さん達の悲痛な表情の意味を、後から理解した。
と同時に、失われる「山村の生活」の最後の瞬間だけを映し取ろうという、作り手の“ピュア”な立ち位置が分かったのである。

“サステイナブル”に山村を利用し尽くす、老人たちの知識と行動力には、終始、驚かされっぱなしであった。
漢方薬用のキハダの皮を除けば、ほとんどが食物に関する話だった。
ワサビやトチの実や山イモなどを採取し、小魚やヘビを捕まえる。
“食べ物はスーパーで買うもの”という自分が、ホントに馬鹿に思えてくる。
これらの実践的な知識は、一朝一夕ではつくまいから、老人たちと共に消えゆくのだろう。

「タコの糸が切れたように」、気ままに山野を歩き回って過ごす幸せ。
老人たちにとって、もはや、この廃村は“遊園地”なのであろう。
生まれ故郷だから、ではない。19歳でここに来たという徳田のお婆さんにとってさえ、かけがえのない“故郷”になっているのだ。
15年間にわたる、素晴らしい記録だ。

Imperator