おやすみ、クマちゃん : 映画評論・批評
2007年8月7日更新
2007年8月4日より東京都写真美術館にてロードショー
その素朴さと純粋さに心が洗われる
「おやすみ、クマちゃん」には「トランスフォーマー」と同じ映画的快感がある。なんて言ったら奇異に聞こえるかもしれないが、それは紛れもない事実だ。かたやおもちゃの変身ロボが最先端のSFXで躍動し、かたやこぐまのぬいぐるみが手造りの人形アニメーションで歌い、踊る。どちらも、幼い頃誰もが抱いた“創造力”の実現そのものといえる。
共産主義時代のポーランドで製作された本作は、マーケティングとはまったく無縁の環境の中、時間とお金をたっぷりとかけて作られている。驚くほどシンプルな造形のキャラたちが伝統的な技法で繊細に命を吹き込まれ、繰り広げる微笑ましいエピソードの数々は、手造りのあたたかさと懐かしさに満ち、デジタル全盛の今だからこそ逆に新鮮。これまで紹介されてきた東欧の“アート系”人形アニメーションとは違い、毒も作家性もほとんどないが、その素朴さと純粋さに心が洗われる。食べ物で言えば、無添加、無農薬のスローフード。この過剰な刺激を排除した心地よい“緩さ”こそ、子供たちの創造力や創作意欲のために必要なのではないだろうか。
私はこの素晴らしさを伝えたい一心で今回本作の配給を企画した。保育業界のカリスマ、ケロポンズによる日本語吹替えも、流行りの有名タレント起用のそれとはまるで違う、心のこもった仕上がりになっていると思う。
(江戸木純)