サッド ヴァケイション : インタビュー
劇場長編映画デビュー作「Helpless」(96)、そしてカンヌで圧倒的な支持を受け代表作となった「EUREKA ユリイカ」(00)に続く“北九州サーガ”の集大成として製作した青山真治監督の新作「サッド ヴァケイション」。デビューから11年を経て、新たな代表作を作り上げた青山監督にインタビューを行った。(聞き手:編集部)
青山真治が語る「サッド ヴァケイション」
――本作は“北九州サーガ”の第一章にあたる「Helpless」とは打って変わって、女性たちの物語になっていますが、それは結婚して家に女優さん(とよた真帆)がいることと関係あるのでしょうか?
「ここにきて俳優、特に女優さんと仕事をすることが何よりも楽しくなってきたんです。そういった意味で女優さんとの仕事が自分の映画作りの中心になってきたのは事実です。それは家に女優が一人いるっていうことが大きく影響しているとは思います。これまでは、ある種映画という“装置”に傾倒していて、キャメラ、レンズ、照明器具、録音装置やクレーンなどの特機といったものに偏愛というかこだわりがあったと思うんですが、そういうものが一切無くなってしまい、代わりに俳優さん、とくに女優さんに興味がいってしまったんです。これは主演の浅野くんとも共通認識を持っていて、『女優っていうのはエイリアンで、あんなに面白い生き物と仕事をすることほど楽しいことはない』って彼と話していました(笑)。2人が同時期に同じ事を考えてて、だから浅野くんに『今度女優さんたちをいっぱい集めて一緒に撮ろうよ』って持ちかけたのがこの映画だったんですよね」
――千代子役の石田えりさんが圧倒的な存在感を放ってましたが、彼女をキャスティングした理由は?
「薬師丸ひろ子さん、国生さゆりさん、とよた真帆もそうですけど、みんな僕とほぼ同世代に属する女優さんで、なおかつ僕が中学、高校、大学までの映画やTVで、刮目して見ていて、映画監督になってからもいつかこの人と仕事をしたい、と思っていた女優さんたちです。彼女たちの代表作を自分で作ることが出来たら、それは僕の誇りだろうなと思えるような方々。石田さんもそのお一人です。女優に限らず男優に関してもそうなんですけど。宮崎あおいの場合もそうですが、女優さんは若くして世に出ますよね。しかし若くして世に出た女優さんが、中年にさしかかったときにその時期の代表作を作ることが出来るかどうかっていうのは、実は難しい問題だと思うんです。男優の場合は、色んな形で何とか凌いでいけるわけですが、女優さんの場合企画を通すのが凄く難しくなる。バカバカしい話ですがいわゆるショービジネスってそういうところがある。そんな中で、石田さんと一緒に仕事が出来て、なおかつ、石田さんがこの映画の中で凄まじい存在となってくれたと自分で思えることは、僕にとって非常に名誉なことです」
――本作の物語の舞台になる間宮運送は、クリント・イーストウッドの「アウトロー」(76)を思い起こさせる異端者たちが集まった緩やかな共同体で、何とも微笑ましかったです。
「イーストウッドの『アウトロー』も大好きですが、今回の間宮運送の面々を描くに当たって意識したのは、ジャン・ルノワールの『どん底』(36)です。ああいう、なんだかよく分からないけど貧乏人が集まっている長屋みたいなところで、ここでしか生きていけないような状態をシチュエーションとして置いておきたかったんです。というのは、こういう逃げ道がないと、生きていけないシチュエーションが現実の世界にもあると思うんです。健次たち間宮運送の面々は法の外側というか、法律の枠組みを出たり入ったりするような社会、普通の社会の外側にももう一つ社会があるといったようなキワキワの世界を漂っていて、彼らはそこでしか生きていけないような人間なんです。冒頭で中国からの密航者たちが出てきますけど、彼らもやはり法の外側からやってくるわけです。彼らを“アウトロー”と呼ぶと語弊があるかもしれないけど、いつでも“アウトロー”になりうる存在ですよね。この映画では、そういう存在を描こうとしたといってもいいと思います。“アウトロー”と“非アウトロー”の中間の領域という意味で“ヴァケイション”という言葉がタイトルにも入っているんじゃないかな」
――北九州というところは、やはり“アウトロー”な人が多いのでしょうか?
「ちょっと僕の口からは言えません(笑)。ただ、北九州だけじゃなく九州全域に借金取りから逃れて運送をやりながら、あっちこっち行ったり来たりしているような流通組織があると聞きました。知られてはいませんし、知られてはいけないんだろうけど」
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