「モン族は実在した」モン族の少女 パオの物語 よしたださんの映画レビュー(感想・評価)
モン族は実在した
モン族といえば、クリント・イーストウッドの「グラントリノ」で、彼の隣家の住人たちがその民族名で呼ばれていた。
その映画を観たときは、架空のアジア系移民としてその名を充てているのだと推測していたのだが、ベトナムに実在する少数民族であるとは、このたび初めて知った。
美しい自然を印象的なカメラワークでとらえ、主演の女優も美しい。養母の役を務めるのは、「シクロ」でトニー・レオンの愛人役を演じていたグエン・ヌ・キンだ。日本の余貴美子に似た面立ちのこの女優と、主人公の娘を演じるドー・ハイ・イエンも凛とした長女としての一面と、恋する少女との演じ分けが素晴らしい。
この二人はトラン・アン・ユンの「夏至」でも共演しているということだが、ハイ・イエンのほうはこちらの作品ではほとんど記憶にない。半年ほど前に観たばかりなのだが。
実話に基づいた映画というなので、シナリオにあまりケチをつけても仕方がないが、前半の素晴らしい語り口に比べると後半が急ぎ足で味わいの薄いものになってしまっている。
韓ドラと「母をたずねて」が合わさったような展開がチープなのも残念だが、山村から出てきた主人公が街に出てきて遭遇するカルチャーショックや不安を描き切れていない。
せっかくインターネットや携帯電話といった演出がなされているのに、主人公はまったく意に介さず、実母の消息をたずねること以外に何に対しても関心を示すことがない。つまり、母親を探すことの他に何のドラマも生まれてこないのだ。
携帯電話が出てくるまでは、もっと昔の物語なのだと思っていて、それを使う学生たちをスクリーンにみとめた観客のほうがむしろ驚いている。
それでも、二人の母親を同時に失った悲しみは十分に伝わってくるし、養母の新しい人生を認める少女が大人の階段を一つ昇ったことがさわやかに描かれていてよかった。
不倫の発覚した芸能人を、鬼か何かのように迫害するどこかの国のワイドショー視聴者には理解できない境地であろう。