「冒頭からほぼノーストップでスペクタクルシーンの雨あられ!!」ボーン・アルティメイタム 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
冒頭からほぼノーストップでスペクタクルシーンの雨あられ!!
素晴らしい緊張感、スピード感のある映像で、大満足しました。
およそアクションは、台詞や仕掛けで語らせるのでなく、純粋に映像で迫力をアピールするものであると考えております。
その点、「ボーン」シリーズは、007のような派手な装備が出てこないところが、いいですね。
とにかくリアリティを感じさせる瞬殺の格闘シーンや、手近なものをなんでも武器にしてしまう肉弾戦が大きな魅力なんです。この三作目も冒頭からほぼノーストップでスペクタクルシーンの雨あられ。
この特殊アイテムに頼らない、アナグロなスピード感がボーン・シリーズの魅力の根幹なのではないでしょうか。
そのスピード感を表現するために、短いカットを畳み掛けるようにつないでいくポール・グリーングラス監督の演出も冴え渡っています。現代の映画では最高レベルのスピード感あふれる格闘場面は、何気なくコマ落としのようにつないでいるように見えて、しかし細かい工夫がなされているようです。
これが普通だとストーリーが早くて観客が置き去りになりがちなのですが、台詞が少なめで聞き取りやすいので、充分ついていくことができました。
たとえば狭いバスルームで殺し屋とボーンが戦う場面。殺し屋がカミソリを拾い、それを見てボーンが防御のためタオルを取るといった、その一連の動きはあまりに早すぎてまったく見ることが出来ません。あっという間に、二人の手にそれがあるといった感じでも、そのスピード感でドキドキの連続で、全然気になりませんでした。
続けて、これまたまったく"見えない"爆速の攻防戦が繰り広げられるです(^^ゞ
途中でチリーンと殺し屋がカミソリを取り落とす音を、監督はわざと目立つように入れるのですよ。私たち観客に戦いの経過を音で見せて、それだけで見せてしまうのですね。
この「チリン」という音ひとつのおかげで、あたかもボーンの超人的なスピードに自分もついていっているような気になり、大いに快感を得らました。こうした工夫は随所にみられ、この作品がいかに高度な計算に基づいた優秀なエンタテイメントかがよくわかります。
エシュロン(盗聴システム)を駆使する当局から逃亡するという大筋がありながら、各々の見せ場を「逃げるボーン」一色にしないあたりもそうです。
あるときは王道の逃亡劇、あるときは味方記者を敵から逃がすため、携帯電話で離れた場所から指示を与えていく。そしてときには女を助けるため、彼女を追跡する殺し屋を追う側にまわります。
しかもその一つ一つは複合的な要素で構成され(たとえば殺し屋を追うボーンを、さらに地元の警察が追っているという二重構造)、さらに中途で二つの要素を合体させたりなど、単調な部分は一秒もありませんでした。
ついでに、アクションシーンのバックにはモロッコなどロケ地の美しい風景が広がっており、目の保養にもなります(^^ゞ
最大のおすすめは終盤のカーチェイスですね。
これもむちゃくちゃスゴイ迫力で、緊張しました(^^ゞ
何が凄いかというと、これを見ていると「ああ、いよいよボーンの物語も終わるのだ。奴はもう後のことなど考えておらず、ここで決めるつもりだ」という、主人公の悲壮感のようなものがバシバシ伝わってくるのです。
文字通り満身創痍になりながら、それでも彼は前に進みます。ここまで"物語と感情"を感じさせるカーチェイスは、なかなか他の作品では得難いことでしょう。
それにしても、ボーンシリーズには組織の狂気を感じます。
CIAという大きな組織が、一旦狂い始めたら、アメリカ国民の安全を守るという大義名分のために、同じ国民を暗殺のターゲットにし、秘密の維持のためには、仲間のエージェントや職員ですら抹殺しようとします。
ボーンの戦いを通じて、組織の中で思考停止する恐ろしさも感じさせてくれました。
但し、完結編としてストーリーはすっきりされてくれましたけど。
ボーンが助けたエージョンとの女性が、ラストにテレビのニュースを見て微笑むのを見て、ボーンの新シリーズへの展開も予感させてくれました。