怪談 : 映画評論・批評
2007年7月31日更新
2007年8月4日より丸の内ピカデリー2ほかにてロードショー
様式的な映像美が見事な中田秀夫監督のベストワーク
ハリウッドで撮った前作「ザ・リング2」(05)の反動なのか、中田秀夫監督の新作は、同じホラーでも彼にとって初めての時代劇、すなわち純然たる和の世界を描いた1本となった。同じタイトルの映画に、小林正樹監督が小泉八雲の短編を4話オムニバスで映画化した65年の名作がある。内容は違うが、当然あのレベルを射程に入れているだろう。古典的、というよりは、日本の古典が持つ普遍的な強度を現代に蘇えらせる作業。CGはあくまで必要に応じた効果として使われ、様式的な映像美が見事に画面に焼きついた。
その中で語られるのは、ひとりの亡き女(黒木瞳)の強烈なカルマによって、モテモテの美青年(尾上菊之助)が壮絶な女難の地獄めぐりを強いられる様である。原作は三遊亭円朝の落語「真景累ヶ淵」だが、完全に現代でも生々しいラブストーリーだ。受身タイプの優しい男と、彼に引き寄せられるように次々と現れる、ディープな情念を抱えた女たち。愛情のダークサイドである嫉妬が相手を苦しめる、いわばストーカー恋愛。これは怖い!
それでも映画は究極の愛憎を謳い上げ、おぞましくも甘美な余韻を残す。「リング」の第1作目(98)は確かにJホラーの決定的なマスターピースだけど、中田秀夫の現時点ベストワークと呼べるのは、こちらではないだろうか?
(森直人)