劇場公開日 2007年5月26日

「太一くんの役作りには一途なんですね。落語の艶っぽい魅力に触れる作品」しゃべれども しゃべれども 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0太一くんの役作りには一途なんですね。落語の艶っぽい魅力に触れる作品

2008年4月23日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 最近はアイドルというよりもオーラの泉の進行役としてとぼけた味の国分太一さんが主演している作品です。
 ジャニーズ所属のタレントとはいえ、ステレオタイプの主人公の青春ストーリーとは一味違います。平山監督の演出は、夢を追いかける裏側にある苦しみと喜びを、地に足のついた視点で丁寧に描いていました。

 落語という、若者文化の中心から外れた伝統芸能と、それを取り巻く下町の風景。これが、誇張されず、かつ、いい風景を切り取っているのがよかったです。でもね、十河五月役の香里奈さんは都電沿線にはなかなかいないタイプかも。

 劇中披露される落語「火焔太鼓」は故・古今亭志ん生の持ちネタ。それを若き頃浅草や新宿の演芸場で鍛えた伊東四郎が披露するわけですから、ちょいと落語をかじったものなので興味のあるところでした。実は小地蔵の分身も若い頃は新宿の末廣亭に入り浸り、落語家の鞄持ちをしていたことがあるのです。
 小耳に挟むところですと当の伊東師匠、なんと「火焔太鼓」を語る場面はテスト無しの本番であったとか。しかも長回しの演出でエキストラの方々を前に演じきった、というのですからたいしたもんです。さすが喜劇人。鍛えていますよ。ここが締まらないと、映画全体がチープなものになっていたところですね。

物語のテンポは落語の映画にふさわしく、独特の間があります。それは長回しを多用してつないでいった平山監督独特の演出によるものでしょうけれど、2時間弱の間、ずっと陽だまりの中にいたような、ホッとした気持ちにさせてくれます。心地いい作品です。
 このゆったりしたテンポにホントに自分の気持ちを伝えるのが、下手な登場人物が絡むんとき、そのもどかしさが絶妙に共感できるのですよ。だからラストでつい自分の気持ちをポロリと告白するシーンには、クグッと感動しました。
 それにしても香里奈さん、オーラの泉の出演で見せた笑顔とは裏腹に、本作では能面のような無表情な女性を演じきっていましたね。しゃべれない湯河原太一役の松重豊は、ホントへたくそな野球解説ぶりが、うまかったです(^^ゞ

 自分だけでないのですね。自分の気持ちをうまくいえない人って。だからしゃべるのがへたくそってねぇ~自己嫌悪している人は、この映画を見れば妙に安心されると思います。落語好きではない人でも、しみじみ見れられますよ。そして原作にも感じる「さわやかな涼風」がこころを吹き抜けることでしょう。

  それに対して太一くんの落語も、撮影が進むごとに上達していったのがよく分かります。30分の大ネタを途中シーンは飛ぶもののオチに至るまで全編演じきっておりました。(実は撮影ではカットなしだったとか。)ちょっと見ただけで、劇中の主人公と同化して、これは相当語り込んだ努力のたまものに違いないと思えました。一生懸命熱演している高座の太一くんを見ていて感動しましたよ。この人、ホント役作りには一途なんですね。
 これを観て、落語の艶っぽい魅力に触れるファンも多いのでは?
 ベテラン、伊東四朗の落語もさすがでしたが、子役の森永悠希のこまっしゃくれた噺家っぷりは見事。何たって手本にした枝雀師匠のアドリブまで完全に再現しているのです。 彼が演じた落語「まんじゅうこわい」ならぬ、「将来がこわい」子役さんですね

流山の小地蔵