「この素晴らしき残酷な世界の描き方」明日、君がいない Cape Godさんの映画レビュー(感想・評価)
この素晴らしき残酷な世界の描き方
総合:85点
ストーリー: 85
キャスト: 75
演出: 90
ビジュアル: 70
音楽: 70
それぞれの登場人物の抱える問題と心の動き。ちょっと均衡がずれただけで何かが崩れそうな、どことなく緊張感のある空気。途中途中にインタビューをはさみ、ドキュメンタリー調に進行していく物語。それぞれの時系列を別個に撮影し、それを後で統合する。
最初はちょっと性描写の多い、今時の少しだらしない若者の苦悩する青春物かと思って見ていた。だが思っていたよりもずっと複雑で深刻な苦悩が描かれていた。若さは時に残酷で、その残酷な世界に生きる六人の高校生の、生々しいまでの演出に圧倒された。手首にはさみを突き刺した瞬間に血が噴出す部分も、恐れることなく鮮明すぎるほどに真っ向から撮影し、いかに鋭い心の痛みを抱えての行動かを訴えてきた。美しい音楽もまた時に悲しく残酷だった。
この作品は、監督が友人を自殺で失ったという実体験から作られた映画だということだ。彼女は自殺するように見えなかった。だが表面上は何もないように思えても、現実には人それぞれが打ち明けられない深刻な悩みを抱えていることがある。自殺しなかった登場人物ですら、自殺してもおかしくないような悩みを抱えていたものがいた。映画の中の最後のインタビューでも言われたように、みんな自分のことで精一杯だった。他人のことなど思いやる余裕なんてなかった。自分以上に不幸なやつなんていなかった。まったく予測出来ていなかったからこそ、その衝撃は逆に大きかったのだろう。
大切な友人なのに、何も気がついてあげられなかった、何もしてあげられなかった。その人に何が起きていたのか、真実はわからない。だけど監督のそのような茫然自失としたその時の過去の実経験の喪失感が、なんとなく映画を通して伝わってきたように感じた。トラウマを背負ったまま、その傷が癒える間もない19歳の若い監督だからこそ、これほどにまで触るのも痛々しいほどの残酷な作品が作れたのではないか。そんな気がした。