「卓抜した技巧で青春群像を」明日、君がいない シンコさんの映画レビュー(感想・評価)
卓抜した技巧で青春群像を
オーストラリアの新鋭ムラーリ・タルリ監督が、わずか19才で取り組んだという映画です。
友人を自殺で失い、その半年後に自らも自殺しかけたという実体験を元に、2年の歳月をかけて作り上げたといいます。
「自殺」というモチーフに関心があって観てきました。
6人の高校生のエピソードを、時間と視点を巧みに交錯させながら描いていきます。
インタビューを交えながらの語り口といい、伏線をふんだんに散りばめた構成といい、ダイナミックで流麗なカメラワークといい、とても映画制作が未経験だとは信じられない驚くべき技巧の作品です。
若いエネルギーで作ったというより、卓抜したテクニックで表現されています。
登場人物のうち自殺したのは誰なのかというサスペンスをからめ、舞台はほとんど学校のみという空間で少年たちの内面に迫ります。
同性愛や身体障害という苦悩を抱えた少年、成績優秀で小説や音楽の才能もある少年、女生徒にもてるスポーツマンなど、様々な個性を持った人物たちが互いに係わり合いながら話は展開していきます。
初めから自殺の動機をうかがわせる少年もいますが、何の悩みもないと思われた少年たちも、実は誰にも言えない秘密や葛藤、とんでもない問題などを抱え込んでいることが、次第にあぶり出されてくるのです。
決してあざとくない自然な演出も秀逸でした。
(ただラストシーンだけが、リアリズムに欠ける感があったのが残念です。)
みずみずしくも生々しい青春の苦しみを、鮮烈に見せつけてくれた一作でした。
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