「女王の条件。」クィーン Chemyさんの映画レビュー(感想・評価)
女王の条件。
現役の女王の内幕を描いたという恐ろしいチャレンジが、これほど成功を収めたのは、もちろん脚本も演出も演技も素晴らしいことはもとより、英国王室が「時代の流れ」をしっかり受け止めている証拠ではないだろうか?英国貴族へ強い憧れを持っている私としては、まず、英国王室の「日常」が見られるのが嬉しい。王室といっても普通の「家族」。家族だけで過ごす日常は、我々と何ら変わりない。意外と質素な暮らしぶりにも興味を覚えた(女王の着古してケバだったガウンが愛らしい)。自分でジープを運転する(しかもクルマに詳しい)など、女王のアクティブな一面が見られたのも楽しい。次には絶賛されているミレンの演技力。威厳ある中で、時折見せる弱さ。無表情の雄弁さ。引き結んだ唇に閉ざされた感情。「女王」という「職業」を生涯続ける責任感。その冷静な情熱をミレンは見事に演じきった。
さて、本作で私が一番感じたことは「時代の変化」、あるいは「マスコミの影響」。日本の政治家やお役所にも言えることなのだが、閉鎖的な組織の中にいると、外部の状況が分からないことが多い。そのため、従来の「常識」が大きく変化していることに気付かず、問題が起きたときの対処を間違ってしまい、よけいに大きな問題にしてしまう。今回イギリス王室に起こったのはまさにこんな状況だ。女王は、「しきたり」と「イギリス国民の良識」を信じ、自分(王室側)が正しい判断をしていると思っていた。しかしマスコミの先導もあって、国民のダイアナ元妃に対する想いとの間に大きな温度差ができてしまったことに戸惑う。この女王の素晴らしいところは、「聴く耳」を持っていること。皇太后やエディンバラ公が、従来通りのしきたりを頑なに重んじているのと違い、革新派で若い世代(?)を代表するブレア首相(余談だが、本作でのブレア首相が、あまりにカッコよく描かれ過ぎていてくすぐったい・・・笑)の意見を、吟味し検討し、決断を下す。そしてその決断が最終的に正しいものになるあたりが、若くして「女王」になった彼女が身につけた「知恵」なのだろう。「1つの出来事」には様々な見方がある。他方をたてると他方がたたない。国民全てに責任を負うということは、計り知れない忍耐と自己犠牲が必要となる。時代の変化(例えその変化は、マスコミによって意図的に作られたものであろうと・・・)をいち早く見抜き、それに対応できることこそが、「愛され尊敬される女王」の形。だからこそ、このような映画が製作されるのだ。そして、「愛され尊敬される女王」の姿をイギリスだけではなく、全世界の人々に知らしめることとなるのである。