「飄々と生きてきた主人公の視線」東京タワー オカンとボクと、時々、オトン Cape Godさんの映画レビュー(感想・評価)
飄々と生きてきた主人公の視線
総合:75点 ( ストーリー:75点|キャスト:80点|演出:75点|ビジュアル:70点|音楽:70点 )
リリー・フランキーの自伝的小説を基にした作品らしい。原作は未読で、どんな内容かも知らずに鑑賞した。
型破りの父親の存在のせいでけっこう複雑な家庭環境で育ったようだが、それでもこのような小説あるいは映画ではよくある典型的な設定ともいえる。だが自伝的ともなれば話は少し変わってきて、作品の内容がそのまま再現されているのかどうかわからないにしても、それが絵空事ではなくて現実に似たようなことが起きていたのだとすると、かなりの説得力があるし観ていて面白い。
それが後半への母親との生活での前振りとして効いてくる。成功するにつれて息子が苦労をかけた母親を東京に呼び寄せ親孝行出来るようになる場面は観ていて気持ち良い。
でももし主人公が成功していなかったら、親孝行する場面もないままに親に仕送りを頼み続ける生活を送っていたのかもしれないと思うと怖い。成功して良かった。
父親のせいで母親には実際には相当な修羅場があったと思われるし、家庭の事と仕事のことでも苦労が絶えなかったはず。だがそのような厳しい場面は厳しく描かれず、むしろ飄々と物語は進行する。主人公である息子もこんな家庭で育ちながら、どうしたことか自堕落でその日暮らしを飄々と生きている。息子がそんな性格だから、本来ならば厳しい緊迫した場面も飄々と面白おかしく捉えているのかなと思う。だから視聴者としても観ていても苦しくない。
だが一転して癌の母親の抗がん剤の場面は苦しい。ここだけは厳しい状況が厳しいままに描かれている。原作者にしてもここだけは本当に苦しかったのかと思われた。
この作品の良い点の1つは、数々の豪華な出演者と、その演技力の質の高さである。特に樹木希林の演技力は相変わらずの凄さだが、若いころを演じた娘の内田也哉子が母親に似ている見た目を含めてはまり役だった。自堕落で軽薄だが優しい主人公のオダギリジョーと、型破りな父親役の小林薫も良かった。