劇場公開日 2007年4月7日

「権力の虜」オール・ザ・キングスメン Cape Godさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0権力の虜

2013年3月4日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

知的

難しい

総合:80点
ストーリー: 75
キャスト: 85
演出: 85
ビジュアル: 70
音楽: 75

 権力に取り付かれそれを守ることに執着した元役人の男を、彼の正義感に惹かれて彼の元で働いた新聞記者の男が、けだるい憂鬱な雰囲気の中で描く。

 ショーン・ペン演じるウイリーは、最初は賄賂を拒否したことで職を失うことになったほどの清廉な人物であり、田舎でほそぼそと生きていくのが似合う小人物だった。しかし権力を目の前にした途端に彼の全ては変わる。
 彼は普段は真面目な一市民でも、彼の正義感から来る扇動政治家の素質があった。通常通りの選挙演説から自分流の派手で人々の怒りの感情を煽り立てる方法に変えたとき、その素質が開花する。敵を作り上げそれを攻撃することで、自分こそ大衆を代表して正義を全うする英雄だとして自分自身を祭り上げ大衆にそれを認めさせる。出納役人をやっていた彼を静とするならば、選挙からの彼はまさに動である。まるでヒトラーの演説を彷彿とさせるし、それがその後の彼を暗示している。実際その後の彼は大衆の金持ちへの怒りを支持母体に、自分の思うままに権力を使おうとするのである。
 元々彼は器の大きな人物ではなかったのだろう。彼の器を越えるものが自由に出来る権力を手に入れたとき、過去の彼は完全に消え去ってそれに固執するだけの違う人物が誕生してしまった。彼の正義感は消えて、自分のために正義の名の下に彼の政敵を攻撃するために使われる扇動の力となった。

 地位・責任・権力が人を育てることもある。しかし自分の器を越えるものを手にしたとき、それらが人を駄目にすることもある。それが多くの市民に影響を与える。そのような怖さが出ていた映画であった。

 しかしジュード・ロウが最初の清廉なショーン・ペンに惹かれたのはわかるが、ショーン・ペンが権力欲のかたまりに変貌してしまった後も彼の下で働き続けたのは何故だろう。ジュード・ロウは美しい思い出や友情や親愛など多くのものを失うことになったし、そうかといって彼が権力欲に取り付かれていた感じではなかったし、またそのままでは多くのものを失うことがわかっていたはずなのにである。彼は新聞記者として正義の心をもっていたはずで、それだからショーン・ペンに惹かれたはずだ。過去の姿の幻想から抜け出せなかったのだろうか。そのあたりが少し疑問として残った。

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Cape God