劇場公開日 2007年3月10日

「エンディングがなんとも言えない余韻を残してくれた」パラダイス・ナウ kossykossyさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0エンディングがなんとも言えない余韻を残してくれた

2018年11月13日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 サイードとハーレドという二人の若者。自動車修理工場でのやりとりを見ても、どこの国にでもいそうな今風の男たちだ。違っているのはそこが被占領地であること。平和な世の中で過ごしていると、彼らの心の奥底に潜んでいるものが見えてこないのかもしれない。

 まず驚かされたのが、普通に帰宅しようとしている人たちの近くで爆撃音がこだまするシーン。被害を被らないように皆一様に体を低くするのですが、その直後には何もなかったかのようにまた歩き出す・・・このような出来事は日常茶飯事なのだろう。

 そうしたパレスチナ問題が残るイスラエル占領地。サイードとハーレドがテルアビブでの自爆攻撃の任を与えられる。未来のある二人が仕事や家族や恋愛を顧みて悩み続けるのかと思っていたら、「英雄になれる」と喜んで命令を受けるのです。真っ先に思い浮かべるのが第二次大戦中における日本の特攻隊。その自爆という行為によってすぐに問題が解決するわけではないのに、積み重ねて礎となることが名誉であり、平和への糸口になると教え込まれているかのようだった。

 「死をおそれない者は天国に行ける」と信じている彼ら。先の見えない占領地においては、生きる希望よりも未来の祖国を祈る気持ちのほうが強くなるのかもしれない。また、圧倒的な軍事力を持つイスラエルに対抗できるのは自爆テロしか手段がなかったのかもしれない。しかし、英雄の娘であるスーハの言葉からもわかるように、解決の手段はどこかにあるはずなのです。

 映画の作りとしては、かなり真面目に取り組んであった。フレームの端でコーヒーだとかエキストラのちょっとしたアクセントも面白いし、一見して平和そうな場所から路地に入ると爆撃痕の残る建物が平然としているアンバランスさも見事に捉えていた。イスラエルへと侵入する場面だとかに緊迫感がなかったことが残念だったけど、二人の心情変化が対照的だったことが脚本の力を感じさせてくれました。

 パレスチナ問題を真摯に取り組んだ映画、しかもパレスチナ内部から、自爆テロ志願者からの描写なんて珍しい。欧米では敬遠されるような内容であるかもしれないけど、ファシズムによる戦火の中で戦っていたレジスタンスと意志は共通であろうし、歴史が変われば彼らの存在は尊い犠牲者として受け入れられることになるのでしょう。手段は間違っていても、平和な世界を夢見ていただけ。遠く離れた見知らぬ国であっても一傍観者であってはいけないのだと痛感させられました・・・

kossy